Precious Summer Memory Among Us

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「最悪……」  花火大会当日。私が着いた頃には、会場は多くの人で溢れかえっていた。道路は観覧者のために一定区間通行止めになっていた。  目の前に広がる人の列。入ったら最後、もう戻っては来られないほど人が右から左へと流れていく。まるで濁流のようだ。  ここからバイトの先輩二人を探さなければいけないとなると骨が折れる。  スマホで時間を見ると午後六時半を回っていた。開催は午後七時なのでタイムリミットはわずか三十分。ひとまず、スマホからチャットを開いて先輩に通話する。   「もしもし」 「もしもし、千影です。今〇〇駅につきました。どこにいます?」 「近くの噴水にいるよ。ここ意外と綺麗に見えるらしいってさっき教えてもらったんだ」  会話をスピーカーモードにして、スマホの地図アプリで現在位置と噴水の距離を測る。ここから歩いて十分くらいで着けるようだ。  ただ、不幸にも濁流に反して動かなければいけないので、時間は大いにかかるだろう。 「わかりました。今からそちらに向かいますね」 「了解。人が多いから、気をつけてね」 「ありがとうございます」  通話を切り、ポケットにしまうと私は意を決して濁流へと入っていった。  人混みは流れる人と止まっている人がいる。それをうまくかわして歩いていった。時間はたっぷりある。ゆっくりと着実に歩いていく。  すると止まった人たちの間から大勢の人たちが流れてきた。私は思わず立ち止まり、彼らの流れを待つ。彼らは止まることなく、ゆっくりと流れるため空くまでに時間がかかった。  流れが消え、ようやく空くと私は少し急いで歩を進める。  刹那、不意に足が強く引っ張られると何かが抜けたような感覚を抱く。  勢いにのって私は前のめりになり、こけそうになる。 「大丈夫?」  それを前にいたお兄さんがうまく受け止めてくれた。「すみません」と言って、彼から離れる。反射的な行動で相手に不快を抱かせてしまったと思い、頭を下げた。その際に自分の履いていたサンダルが一足ないことに気づく。代わりに道路の熱を感じて思わず足をあげた。    素足をもう一方の足に重ねつつ、あたりを見回す。人が多すぎて自分のサンダルがどこにあるのかわからなかった。路上が熱を持った中、素足で歩くのは困難を要する。私は思わず、ため息をついてしまった。  こんなことになるなら来なければよかった。せっかくの花火大会なのに、何故こんな思いをしなければならないのだろうか。周りにいる人たちに対して、思わずイライラしてしまう。そう思ってしまう自分が嫌で落ち込む負のスパイラルに陥っていった。 『ドカーン』  それを吹き飛ばすように大きな音が鼓膜を伝う。波の振動に鼓動が共鳴し、強く疼く。  最初の大きな音を合図に『ヒュー』と打ちあがる音が幾多にも重なる。夜空を見上げると色とりどりの花火が一斉に花開いた。 「綺麗……」  落ち込んでいたからだろうか。久々に生で見たからだろうか。夜空に咲き誇る花火に心を打たれ、一人でに感嘆を漏らしてしまった。
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