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少し小高い場所にある霊園。姉が眠るお墓に行くまでには緩やかな坂道が続く。
「パパ、りせちゃん、おばあちゃん、早く早くー!」
「こら、走るな、里緒!」
「元気だなぁ……小学生は」
「あの若さ……羨ましいわねぇ」
「しかし……はぁはぁ……年々この坂道登るのがきつくなって来たよ」
「わたしもよ、冬二郎さん」
「ちょっと、冬二郎さんもお母さんも年寄りみたいなこと言わないで」
ハァハァと息をつきながら歩く冬二郎さんと母を叱咤激励する。
「ほら、里緒はもう門まで行っちゃったみたいよ」
遥か先に見える坂の頂上で里緒は飛び跳ねながら手を振っている。
「……車」
「え」
ボソッと呟いた冬二郎さんの言葉に耳を傾ける。
「車……買おうかな」
「……」
「こういう時、車があったら便利だよね」
「まぁ……そうだね」
そう、我が家には車がなかった。それは父が車の事故で亡くなったことと少しだけ関係があり、生前姉が冬二郎さんに車を運転することを固く禁じていたからだ。
冬二郎さんは運転免許証を持っていたけれど姉の強い希望を叶えるために結婚してからは一切車に乗ることはなくなっていた。
今思えばそんなことからも姉はずっと心を痛めて来たのだと分かる。
車の事故で父を亡くしたこと。そのせいで乳飲み子だった私から父という存在を奪ったこと。全ては自分のせいだとずっとずっと自分を責め続けた人生だった。
二度と車の事故で愛する者を失わないために──そういった願いから冬二郎さんへの運転禁止令は出ていたのだと思う。
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