第三章

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冬二郎さんがお見合いをする──その突然降って湧いたような話に動揺しつつ茫然としていた。 「おい、莉世」 「……え」 「何ぼーっとしてんだよ。講義終わったぜ」 「……あぁ」 市役所の食堂を出て母と別れてからどうやって大学まで来たのかよく覚えていない。どうやって今、この現状にいるのかさえも。 (頭の中……真っ白) 隣で何かをいっている敦の話も私の耳には届かない。 (お見合い……冬二郎さんが他の(ひと)と結婚する……) 冬二郎さんにお見合い話があったことを知らないで告白した私はなんて間抜けなのだろう。 だって私には冬二郎さんが姉以外の人と結婚するなんてこと、全然考えられなくて、しかもこの先も誰かと結婚するなんてことは絶対にあり得ないとさえ思っていた。 例え私の告白が跳ね除けられてもそれは姉を愛していて……ずっとずっと姉を忘れずに愛しているからもう二度と結婚はしないのだと高をくくっていた。 ──それなのによりにもよって母が再婚を推奨していただなんて…! (どうして!どうして私から冬二郎さんを離そうとするの?!) 一瞬母のことが憎くなった。だけど少し冷静になってみれば憎んでも仕方がない。母にとっては冬二郎さんと里緒の幸せを考えての行動だったのだろうから。 娘婿と孫をこのまま亡くなった嫁の実家に縛りつけておくことがいいのか悪いのか考えた末の決断だったのだろう。 第一、母は私が冬二郎さんのことを好きだと知らない。だから私の気持ちを無視して話を進めていると憎んでもそれは見当違いな憎しみなのだ。
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