秋野

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10. 「いや、平気。一言でいうと興味があるから」 「え、…興味?」 「そう、俺のこれまでの人生で周りにいなかったタイプだから、面白そうだと思って」 正直に理由を伝えたら、何故か秋野の顔から表情が抜けた。 「そういうの、近くで見るためには付き合うのが手っ取り早いかなって」 思ったんだよねと、笑顔で言って。 無言の秋野の顔を見つめたら。 「………」 秋野は小さく息を吐いてから、 「それって友達じゃ駄目なの?」 と言った。 友達っていうのは。 一緒にいて楽しいやつのことだろう。 俺にも何人かいるけど。 でも友達って、キスしないよね? せいぜいさっき見たようなほっぺにチューくらいだろ? 俺がしたいのはそれじゃないんだよ。 1秒でそれくらい考えて。 うん、と頷いてから、 「友達とはキスしないじゃん」 そう言った。 そしたら秋野が「?」って顔をして。 「…何だって?」 と、訊き返してきたから。 「俺、秋野とキスしたいから」 付き合いたい理由の主なところはその2点。 わかりやすく明確に伝えたつもりなんだけど。 その時の秋野の俺を見る目が、異星人を見るようだったのがちょっと気がかり。 カフェRの勝手口から入ったら、ちょうどスタッフルームに琉さんがいた。 「おはよう、冬馬」 「おはよ、琉さん」 「…ご機嫌だな?」 「…わかる?」 「何かいいことでもあったのか?」 「うん。まぁね」 机の引き出しで何か探していた琉さんが、 「それは良かったな…あぁ、あった」 嬉しそうな声を上げた。 「何が〜?」 着替えながら振り返ったら、古そうなノートを持って立ち上がる琉さんが見えた。 「莉乃さんのレシピノートなんだよ」 恵さんが見たいと言っててね、と言う。 「熱心だね、恵さん」 結婚して涼村から皆木になった彼女を、名前で呼ぶのにもやっと慣れてきた。 「そうだな。それにしてもここに入ってたのか…見つかって良かった」 呟くようなその声を聴きながら思った。 俺も同じかも、琉さん。 見つけた、かも。
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