再会

11/16

1903人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
11. 「秘密なの?」 「………」 教える義務なんかないんだし、無視しようとしたら、 「アキくん、て呼ばれてたじゃん」 そう言った。 駅ではカナさんにそんなふうに呼ばれた覚えがない。 「どこから見てた…?」 そう訊いたら、ニヤッと笑った。 「ドーナツ、食べたかったんだろ?」 …コーヒーショップから! 「さっき、駅で見かけたって言わなかった?」 「見たよ、ほっぺにチューしてるの」 「………!」 「なぁ、何やってたの?あれ、何?」 本当に興味だけで訊いてくるこの男が、急激にうっとおしくなった。 「…帰る。どいて」 「じゃぁ送る」 「いらない。そっちも帰れば」 今度は塞がれる前に横をすり抜けた。 と、思ったら後ろからついてくる。 苛々した。 「いらないって!」 拒絶の声が大きくなる。 「秋野」 「………」 もう無視だ。 でも、歩く後ろから、 「ねぇ、秋野。秋野〜?」 ずっと同じ歩調と声がついてくる。 「…何!?」 馴れ馴れしく呼ぶなと続けて言おうとして振り返ったら、すぐ目の前に奴がいた。 「……っ!?」 思わず仰け反ったら、左の肘を掴まれた。 「秋野、恩返しやり直そ」 「は…!?」 何か変なことを言ってる。 ていうか、近い。 「ちょ、っと、離れて…」 10センチ先の奴の顔。 初めて見た時も思ったけど、本当に整ってる。 その顔で近付かれると、心臓が無駄に早足になった。 あの日は大学生くらいの年上に見えたのに、今日は同年代にしか見えないのも謎だ。 何なんだ、この男。 「おでんは奢っただけってことで、ナシにして?」 「無し…って、じゃぁ?」 「うん、別の恩返しにしてほしい」 「別の…?」 つい訊いてしまったけど、一瞬後にはこんな面倒くさそうな奴に別の形で恩返しなんてやめた方が良いと思った。でも、 「いい?」 そう言われたら、やっぱり嫌だとは言えなくて。 だって、屋台おでんに付き合って恩返しなんて、元々がおかしいし。 「…いいけど、そんなに近づかないでくれる?」 「あ、ごめんね」 ごめんなんて絶対思ってない顔で、奴が身を引いた。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1903人が本棚に入れています
本棚に追加