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13.
「いや、ならないよ?」
どう考えても。
この、顔だけはいいけど絶対中身が変な男を、自分が好きになるとは思えない。
大体、半年以上も前にたまたまバスで乗り合わせただけ。チョコレートをもらったのは確かだけど、その恩返しで付き合うとか。
あり得ない。
なのにこの男は。
「なるよ」
笑顔のままでそんなふうに言う。
「………」
何だその自信。
腹立たしくて、こっちも意地になる。
「ならない」
「何で」
「何でも」
「だから、何で」
そう言いきれるの?と、訊かれても。
ていうか、嫌だと言ってるのに何でこの男は引かないんだろう。
普通は断られたら引くんじゃないの?
あ、初めての告白なら断られたこともないのか…
ため息が出た。
「お互いのことを何も知らないのに好きも何もない。付き合うとか絶対無理だよ」
「あ、なるほど」
と、加藤冬馬が頷く。
「それじゃ、お互いのこと話そう」
「………」
言うと思った。
「嫌なんだけど」
「え、何で」
またこのやり取り。
いい加減、我慢も限界だった。
「あのさ、あんた一体何様なの?」
溜まった苛々を吐き出すように、大きな声が出た。
「何様って?」
「バスでチョコレートもらったのは感謝してるよ。食べ物の恩は忘れないって確かに言った。だからって、何で私があんたと付き合わなきゃいけないの?好きでも何でもない相手、何なら連れ回されて迷惑なんだけど?どうしても恩返しさせたいならもっと常識的なことにしてくれる?」
言ってやった。全部。
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