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16.
アパートに戻って、着替えてシャワーしながら考えた。
何でどいつもこいつも、私とキスしたがるんだ?
そんな魅力があるとでも?
そんなことを考えていたせいで、シャワーだけなのにのぼせたようになって、部屋に戻ってから窓を全開にした。
冷たい10月の夜気は室内をあっという間に満たして、さらにスウェットの襟元から入り込んで体も冷やす。
その中にふわりと金木犀が香った。
あと1週間もしたらきっと全部散ってしまって見えなくなる花の香り。
去年は一緒に見に行った母は、今年はいない。
ちらっと机を見たら、写真立ての中には笑顔の母がいるけど。
高校の入学式。
桜の木の前。
肩を組んで笑う親子の写真を撮ってくれたのは、親友の美環だった。
そう言えば美環に返事してないかも…
明日の日曜、一緒に遊ぼうと誘われていた。
彼氏がバイトで暇だという美環はウィンドウショッピングが大好きで、目的がなくてもショッピングモールに1日いられる人。
私はそんな親友に付き合ってなら、ショッピングモールも嫌ではない人。
スマホを手に取って液晶を見たら、加藤冬馬の登録したアドレス画面がそのままだった。
「こっちからは連絡しないけどな…」
アイコンが子供のおもちゃみたいな馬の置き物で。ちょっと可愛いとか思ってしまう。
真っ赤なのと、真っ白のと。
並んだ馬にはきれいな模様が描かれていた。
また会いたいからアドレス交換。
付き合いたい。
キスしたい。
そんなことを言うくせに、好きとは言わない変な奴。
その変な奴から連絡が来たのは、翌日の朝だった。
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