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3.
隣の隣の席に座っても、ボーイッシュは俺に全然気付かない。
それをいいことに探偵気分で耳を澄ませていたら、「アキくんは格好いい」と言われているのが聴こえた。
アキくん。
「くん」?
背が高くて顔が綺麗、そんな褒め言葉に俺は混乱した。
男、だと思ってる?
ボーイッシュは平然と、そうかな、とか、カナさんは可愛いね、とか返してて。その声も低めではあるけどやっぱり女の声だし。
何だあいつ、どうなってるんだ。
やっぱり男なのか。
でも、横顔をがっつり確認しても喉仏はないし、俺の目には最早女にしか見えない。
いい加減な返事をしているボーイッシュは、どうやら相手が食べているドーナツが気になるらしくちらちら見ている。
チョコもあっという間に食べきってたし、甘いものが好きなのかもしれなかった。
そのうちに、「片想いの相手に告白したい」と言う相手に「頑張って」とまで言うのをきいて、俺は確信した。
あの二人は恋人同士じゃない。
友達かと言えばそれも違うようだけど、それ以上はよくわからない。
そうこうしてるうちに二人が席を立ったので、俺もカップを戻して店を出た。
駅まで歩いて、入口で足を止めて。
三つ編みの子が頭を下げてどうやらお礼を言っているとわかった。
距離があるので、そのやり取りまでは聞こえない。
ボーイッシュがふいに彼女に近づいて頬にキスしたのを見た時。
何故か、ざわっと嫌な感じがした。
そうじゃないんじゃないの?
間違ってない?
そんな、意味不明の言葉が喉元からせり上がって、行き場もなく消えたけど。
そのまま街なかに向かって歩き出したボーイッシュの後ろを追いかけて、肩を叩いて声を掛けた。
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