秋野

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4.  相手は俺の顔を見ても、すぐには思い出せなかったらしい。 無理もない。 半年以上も前にバスで、たかが10分かそこら隣に座っただけ。 相手は俺よりチョコレートに夢中だったし。 でも俺は記憶力には自信があるし、ボーイッシュの性別が気になってインパクトもあったから覚えてた。じゃなくて、忘れてたけど見たらすぐ思い出した。  相手はヒントを3つ出したらようやく思い出して、強引に食事に誘ったら黙って付いてきた。  おでんが食べたかったのは本当。 この数日で朝晩は冷えるようになってきたし、昨日のバイトの時に修くんに我が家のおでん自慢、というか恵さんのおでん自慢をされて、それからずっと口がおでんだった。  恵さんのも食べたいけど、前から一度屋台のおでんが食べてみたくて。 でも、入るのに少し勇気がいるので、丁度いい連れができたと思って連れてったわけだけど。  誤算があった。  大根に齧りついて咀嚼する口元を見てたら、ちょっと変な気分になってしまったのだ。 形の良い唇、血色もいい。 程よい厚みっていうか、柔らかそうで、でも弾力もありそうで。ちらっと見えた白い歯の、その並びも綺麗だった。 うまく言えないけど、たぶん好みの唇なんだと思う。  顔も綺麗、と言った三つ編みの子の気持ちがわかる。  中性的というのか。 直線的な眉とアーモンド型の大きな目、筋の通った鼻、そこにこの唇。 これにキスされたら嬉しいだろう。  これまで何人もとキスしてきたけど、実を言うと俺はあんまりそれが好きじゃなかった。 何ていうか、気持ちいいと思えなくて。 触れるだけならまだマシで、深いの、がどうにも苦手。潔癖ではないのに、何故か抵抗がある。 でもその先に進むためには、しないと違和感があるからするんだけど。 それも相手が求めてくるから仕方なく、というか…しなくていいなら、したくないというのが本音。  俺がしたいのはその先の行為であって、気持ち良くなれたらそれでいい。でも、相手の女の子はキスもしたがる子が多かった。 だから、したくないとは言えなくて。 相手が不満に思わない程度に済ませてた。
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