秋野

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5.  でもこの唇は違う気がする。 触れることに嫌悪感は抱かなくて済みそう。 ていうか、くっついたら、気持ちよさそうだな… そんなことを考えながらおでんを食べた。  ちらちら見てる俺と違って、ボーイッシュは大根を食べる時以外は意地でもこっちを見ないのを貫いてて、それがちょっと面白かった。  食べ終わって、帰るんだろうと思って、バス停に向かって歩きながら、このまま別れたらそれきりだと気付いた。名前も訊いてない。  訊こうかなと思ったら、目の前に1000円札を2枚突き出されて、おでんの代金の話から始まり、付き合わせたから恩返し終了、送っていくから、と初めて会話らしい会話が続いた。  送りはいらないと突っぱねられたけど、女の子は送る主義だと言ったら相手の足が止まって。 何でわかったんだ、みたいな顔でこっちを見た。 何でっていうか、最初から女だってわかってたんだけど。  ちょっと悔しそうな顔が面白くて、俺は増々興味を引かれた。 こいつの頭の中を覗いてみたい。  これきりは嫌だと思って名前を教えてと言ったら、何でと訊き返された。 正直に、興味があるからと答えたら、複雑そうな顔をして「イズミアキノ」と名乗った。 和泉秋野。 涼し気な名前の通り、クールな外見。 名は体をあらわす、とはよく言ったものだ。  俺も名乗って、お互い高3同士だとわかったら、秋野の口調が砕けた。 「秋」野と、「冬」馬。 不思議な縁みたいなものを感じて思わず笑ったら、秋野も肩の力が抜けたみたいに息を吐いて。 「何でわかった?」 と、訊かれた。
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