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6.
「男じゃないって」
何でわかった?
そう言う秋野の目は真剣だった。
てことはやっぱり男のふりをしてたってことだ。で、三つ編みの子とデートしてたわけか。
流行ってんのかな、そういうの。
「声?」
そう訊かれて。
「今日は全体的に女に見えたよ」
結局そんな言い方をした。
喉仏とか、声とか、そういうのよりも、俺には最初から女にしか見えてなかったし。
「前は男だと思ったんだけど」
そう言ったら、秋野は眉をしかめた。
たぶん、その時と何が違うのかを考えてたんだろう。
俺も訊きたいことがあった。
今日のあれは何なのか。
女同士で、秋野が男役でデート。
それをする意味って何なんだ。
でも尋ねたら、秋野は不機嫌になって答えずに帰ろうとした。
興味本位丸出しなのが良くなかったっぽい。
実はコーヒーショップから見てたとか、ほっぺにチューしたのも見たとか、それも言わずにいればよかったのかも。
速歩きの後ろから付いていったら、送りはいらないとまた怒られた。
それでもめげずに名前を呼んだら。
勢いよく振り返った秋野とぶつかる寸前、秋野の方が仰け反ってかわした。
記憶力は悪いけど、運動神経はいいらしい。
そういえばハンドボール部だって言ってた。
バランスを崩して転んだらまずいと思って、咄嗟に秋野の左腕を掴んでたんだけど。
俺は、もうちょっとでキスできそうだったな、なんて思ってて。
その時、気付いた。
あ、こいつとキスしたいんだ俺、って。
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