家族の形

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18.  アパートに帰ってから、明日の段取りを考えた。  誕生日といったら、ケーキとご馳走。 だけど、手作りは無理。 いつか、手作りしてお祝いできたらいいとは思うけど。 「…………」 恵さん、お料理教えてくれないかなぁ… なんて、実は思ってたりする。 図々しいかな? でも、冬馬は家族みたいって言ってくれるし。 琉さんも真咲くんもお料理上手なら、誰かひとりでも時間のある時にお願いできないかな… なんだかんだ言って、自分はもうけっこうあの家族の仲間入りしてるような気になってる。 と、思う。 居心地の良い人、って変な言い方だけど。 あの人達は場所じゃないんだから。 でも、一緒にいたらそう感じてしまう人達で。 本当に不思議なんだけど、受け入れられてる、っていうか… 「いや、今はそれよりも…」 明日のことだ。 座っているとつい考え込んでしまうので、ソファから立ち上がった。  冬馬とは、十時に駅前で待ち合わせしている。 それから、コーヒーミルとドリッパーを探しに行って。 そのあとカフェRに行って、コーヒー豆を買う。 アパートに戻りがてら、近くのお店でケーキと食べ物を買って。 帰ってきたらお祝いして、食事の後でプレゼントを渡す。 「そんな感じ…?」 待ち合わせ以外は、細かく決めてない。 冬馬は、一度ここまで来るって言ってくれたけど、時間のロスを少しでもなくして、ちょっとでも長く一緒にいられるようにしたくて、待ち合わせにしてもらった。 離れていると、会いたいと思うし。 一緒にいると、時間が経つのが早すぎる。 要は、ずっと冬馬のことばかり考えてるってことで。 これって。 もうどうしようもないほど、冬馬のことが好きなんだと思う…    準備という程のこともなく、頭の中で段取りを考えたらおしまい。 …ではなく。 問題はここからなのだった。 「どっちで行くべき…?」 ソファの上に置かれた、向かって右の、女の子服。 この前買った、ニットワンピースのセット。 と、左のいつもの男の子服。 女の子服をじっと見る。 冬馬は、こういうの好きだって言ってた。 あの日はキス事件があってよく見られなかったから、もっとちゃんと見たかったって。 制服以外の女の子服は、これしかない。 デートなんだから、デートのためにって選んで買った服でいいじゃん。 そう思うんだけど… 左側の、定番の私服。 本音をいうと、落ち着くのはこっち…ではある。 いや、でも。 また女子にナンパなんかされたら目も当てられない。 明日は、冬馬の誕生日なんだから。 デートなんだから。 「…こっち、でしょ…」 ワンピースを手に取って、体の前側にあててみた。 見立ててもらったんだし、一度は着たし。 合わないわけはない。 「よし、これで行く」 決めたら、少し気が楽になった。 服をクローゼットに戻してから、シャワーしようと部屋着を手に取って。 「………!」 気づいてしまった。 下着は? 今日はアキになるために、スポーツ用のを付けてた。 でも明日は冬馬の彼女だから… 服だってあれだし、下着だって…? そっと手に取る、ブラジャーとショーツのセット。 一回だけ、着けてみた。 どんな感じかと思って。 ほんとに偶然だったけど、着けてたその日に冬馬と、した。 可愛いねって、言ってくれた… なんて思い出したら、顔が熱くなった。 「べ、別に明日見せる予定はないけど!?」 ないない! そんな話、全然してない! ………。 「普通しないか、そんな話…」 あらかじめ、しましょうって約束をしておくなんて。 あり得ない。 「でも…」 木曜に会った時、キスして… こういうのでもいいよ、って言ってたっけ。 ふざけ半分ではあったけど。 あれはプレゼントの話、だから。 もうプレゼントはあるんだし、理屈で言えばキスしなくてもいいわけで。 「………」 それは淋しい… 「キスはしたいなぁ…」 冬馬とするキス。 いつも夢中になってしまう、あれ。 してる時は必死なのに。 終わってしまうと、何故か淋しい。 もっと、って。 思ったり。 プレゼントじゃなくても、したっていいとは思う。 だったら… 「………こ、こっち?」 戻しかけていた下着を、また引き寄せる。 「期待してるわけじゃない、けどっ…。別にこれだって、いいよね…?」 自分で自分に言い訳して。 そんなことを言ってるくせに、頭の中では。 今朝鏡の前で確認したら、すっかり消えてしまって跡形もなかった痣のことを思い出してる。 また、つけたりする…? 「………!」 どくどくいい始めた心臓の上に手をあてて、頭をぶんぶん振った。 「やめよう。今そんなの考えても意味ない!」 さっさとシャワーして。 きっとまた22時過ぎに冬馬から電話が来るから。 明日のことは、それから決めればいい。 「行こ…」 着替えを持って、シャワーに向かった。
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