誕生日プレゼント

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誕生日プレゼント

1.  冬生まれの俺。 名前の通り。 同じ日に1分違いで誕生した妹は、雪音。 その日は雪が降ってたから。  駅前集合は秋野の提案。 その方がたくさん一緒にいられるって言ってくれたから。 12月の週末は、クリスマス一色に染まってる。 人混みの中の恋人率がいつにもまして高いし、聴こえてくるのはほぼすべてクリスマスソング。 そういうの、嫌いじゃないけど。 大学生のお姉様と別れたと嘆いてた大池とか、遠藤みたいに受験で頭がいっぱいの人にとっては迷惑かもしれない。 俺は、幸せだけどね。 そろそろ来るかなー… 「あの」 「?」 声を掛けられて顔を上げたら、女の子が立ってた。 バッチリメイクの、可愛いタイプ。 違うな、それが可愛いと思ってるタイプ。 あー、面倒くさい… 「ちょっといいですか?」 そう訊いてくる角度がもう、あざとい。 「何ですか?」 「道を教えてほしいんです」 「………」 ここで、どこに行くのか訊いてはいけない。 「そこに交番がありますよ」 駅前ですぐそこにあるんだし、そっちで訊けばいい。お巡りさんは丁寧に教えてくれるし。 「でも…」 しつこい。 「待ち合わせなんで」 目も合わせずに断ると、相手は黙った。 そこへ、 「冬馬!」 って、秋野の声が飛び込んできた。 「!」 「ごめんね、待たせて!」 そっちを見れば、当然、秋野が…いるんだけど… 「………」 「あれ、どうかした?」 「あー…、いや、…」 「あ、こちらは…?知り合い?」 ナンパ女に、どうもとか言い出す秋野。 相手は目を見開いてる。 「違うよ、秋野。知らない人」 「えっ」 知らない人?って驚いてる秋野の手を取って、 「行こう」 「あ、うん…」 歩き出した。  電車の中もなかなか混んでるから、ドア横に並んで立ったまま。 「どうしたの今日?」 「どうって、何が?」 「その、顔とか」 「顔?あ、これ…?」 そう言って、呑気に目元を指さしてるけど。 淡く色づいたそこが、瞬きするたびに何か飛ばしてきてる気がするのは俺だけ? 「美環がね…」 「だと思った!」 今までに、秋野がメイクしてるのを見たことがない。 これは、してなくて正解だったと言わざるを得ない… 「金曜日に、今日のこと話してあったんだけど…」 「俺と会うって?」 「うん。誕生日っていうのも話した」 「それで?」 「今朝、ていうかさっき?急に来て、いろいろされ…、してくれた」 された、って言い掛けた。 つまり、サプライズで押しかけた美環さんに有無を言わさずメイクを施されたんだろう。 美環さん…いい仕事してくれた。 でも、ちょっとやりすぎじゃない…? ちら、と見れば。 「?」 か、かわい… 薄いオレンジ色の、アイシャドウ?っていうの?似合う。 その上に何かキラキラするのもつけてるっぽい。 あと、いかにもじゃない…リップ? ベタっとしてなくて、でも色はちゃんと入ってる、これ何ていうんだろ? ピンクでも赤でもオレンジでもない、何か、絶妙な色。 似合う。 「冬馬?」 「ん?」 「変?」 俺が黙ったままでチラチラ見てるから、秋野が不安そうに訊いてきた。 「まさか」 全然、変なんかじゃない。 むしろ。 「すごく似合ってるし、可愛いよ」 「あ、ほんと?良かった…」 秋野は、自分の容姿に頓着しないから。 あんなバイトできてる時点で、十分非凡なのに。 女の子モードに徹したら、こんなにレベル高いとか。 「すごいよ、ほんと…」 あぁ、久しぶりの予想外。 「服も可愛い」 「そ、そう…?」 この前ちょっとしか見られなかった、ワンピース姿。 俺がもっとよく見たかったって言ったからなのか、また着てきてくれた。 白いふわふわした素材のワンピース、おそろいっぽいベレー帽、上に着たコートは男子モードでも着てたのに、今日の女子モードでも活躍してる。 淡いグレーのタイツみたいなのをはいて、足元はブーツ。 手にしたバッグはたぶん、ブーツに色を合わせたレザー。 普通におしゃれだし。 あと、彼女っていう贔屓目をなしにしても、スタイルのいい秋野は完全に着こなしてる。 「良かった…」 呟くように言って、秋野が笑った。 その、安心した、みたいな笑顔にまた射抜かれる俺。 今までだって可愛かった。 でも今日は、今までで1番可愛いと思う。 そんな俺の前で。 少し恥ずかしそうな秋野が。 「今日は冬馬の誕生日だから、冬馬が喜んでくれたらいいなと思って」 昨日、本気で悩んだとか言う。 どこまで可愛いんだよ…
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