誕生日プレゼント

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4.  お腹いっぱいになって、そろそろ出ようとなったところに。 「冬馬、ちょっと」 修くんに呼ばれて、「裏に回って」って言われた。 「何だろうな」 「うん」 秋野だってわかるはずないんだけど。 駐車場を迂回して、勝手口のドアを開けたら。 「あ、秋野さん」 「あ…」 恵さんが、大きめの紙袋を持って待ってた。 「秋野に用だった?」 「いえ、お二人にそれぞれ…」 「?」 「あ、じゃぁまず…」 秋野さん、と呼ばれて、 「は、はい」 やっぱり緊張気味の秋野が前に出る。 「先日はたくさんのお野菜をありがとうございました。みんなで美味しく頂いています」 「いいえ、こっちも助かりました。食べてもらえて良かったです…」 「新鮮で美味しくて、琉さんも絶賛してました。あの、それでこれ…もしよかったらなんですが…」 「………?」 差し出された紙袋を見て、秋野が戸惑っていると。 「頂いたお野菜で作った常備菜なんです。嫌いなものでなければ、お家で食べてもらえたらと思って」 「えっ、いいんですか?」 「ええ、あの…苦手なものは…」 「特にないです」 「あ、良かった…それじゃ、少し重くなってしまうんですけど」 ごめんなさい、と申し訳無さそうな恵さんの手から、そっと紙袋を受け取る。 「あ…、ありがとうございます」 嬉しい…って呟く秋野の顔は、ちょっと泣きそうなほど感動してる。 「秋野、恵さんの料理のファンなんだよ」 「え…」 「と、冬馬っ…」 「だって、どうせ自分じゃ言えないだろ」 お母さんみたい、なんて言うくらいだから。 大好きなんだろ。 大好きすぎてうまく喋れないなんて。 片想い中の修くんかよ… 「すいません…」 「いいえ、ありがとうございます…嬉しいです」 恵さんも照れちゃってるし。 何、この二人… 「はいはい、両想いで良かったですね」 「両想い…?」 「冬馬、何いってんの…!」 「いいから。で、俺の用は何?恵さん」 「あ、そうそう…」 我に返った恵さんが、ソファの上に置かれていた別の紙袋を持ってきた。 「これ、お誕生日のプレゼントなので…18歳、おめでとうございます」 「えっ」 くれるの? 恵さんからのプレゼントは、もちろん初めてで。 正直、驚いた。 不覚にも、ドキドキしてしまう。 「良かったね、冬馬」 隣の秋野がニコニコしてる。 「ありがとう…」 言いながら、受け取って。 やばい。 嬉しい… 「あ、でも修くんと琉さんにももらってるのに…」 昨日のバイト中、二人からってスマートウォッチをもらった。 最近運動始めたって話したら、スマホアプリと連動して使えるやつを選んでくれた。 運動量とか体調とか、細かく記録できるしすごく便利なやつ。 そこまでしてもらって、さらに恵さんからともなると… 「何か、申し訳ないんだけど…」 さすがにそんな言葉が出てしまう。 でも恵さんは微笑んでくれた。 「私、ここでお仕事を始めてから、たくさんお世話になっているので。いつもいろいろありがとうございます。これからもよろしくお願いします」 ご丁寧に頭まで下げてくれる。 「こちらこそ…よろしくお願いします」 釣られて俺まで敬語になる。 紙袋の中は、ラッピングされた平たい箱がふたつ。 と、小さな紙袋が入っていた。 覗きこんでる俺に、 「あの、エプロンなんです」 と、恵さん。 「エプロン?」 「はい。あの、秋野さんと一緒にお料理するようになったって、修くんから聴きました。だから…」 うわー… 何ていうか。 すごく、恵さんらしいプレゼント、だ。 「ふたつ…あ、ひとつは秋野の?」 俺の言葉に、隣で「えっ」と反応する秋野。 「私も?」 「はい…、どうせならお揃いで着けたらいいかなって思って…色違いなんです」 言いながら不安になってきたのか、恵さんの表情が曇りだした。 「あの、修くんはいいと思うって言ってくれたんですけど…。でも、エプロン使わない人もいますよね?あの、あの…」 「嬉しい!」 「!?」 秋野の予想外の大きな声で、恵さんの肩がビクッと跳ねた。 「ありがとうございます!恵さん」  「あ…いいえ、どういたしまして…?」 「使います!ね、冬馬?」 「うん」 ほしいなって、実は思ってた。 何なら、今から帰る途中で探そうかなとか。 秋野と相談しようとしてた。 だから、すごい偶然…ていうか、恵さんの読みの的確さよ。 「良かったです…」 胸に手を当てて、心底ほっとしたように笑う恵さん。 を、うるうるしながら見てる秋野… 言えばいいのに。 一緒にお料理してみたいって。 買い物も行きたいって。 ま、そのうち言えるかな… 「あ、この小さい紙袋は何?」 エプロンじゃない、手のひらに乗るくらいの白い紙袋。 「それは真咲くんからです」 「「え!」」 驚きの連発だ。 まさかの真咲くんから。 あんな小さい子からもらっていいのか… 「開けてみて下さい」 「あ、うん…」 カサカサいいながら、袋を開ける。 中から出てきたのは、メッセージカードと。 青っぽい色の糸を使ったブレスレットが2本、だった。
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