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8.
普段から、生意気とか自分勝手とか、母親や修くんによく言われる。でも身内には厳しく言うのがうちの母親で、修くんだってある意味身内だし、二人が俺に対してきついのは普通なんだと思ってた。
実際、家族以外からこんなふうに言われたことはない。俺は社交的な性格だし、人との付き合い方はうまい方だと思う。大きなトラブルを起こしたこともない。
だから、駄目なところを直せと言われても何がそうなんだかよくわからなくて放っておいた。
のが、まずかったんだろう。
迷惑という言葉がこんなに心を抉るとは知らなかったし。
秋野の口から出たそれは、断られることはないだろうという驕った俺の考えをきれいにふっ飛ばした。
結局、
「ごめん」
久しぶりで、心から謝った。
言われてみれば、確かにその通りで。
好きになるとか、付き合うとか、当然のように迫った俺が非常識だった。
今までは価値観の似たタイプの子しか周りにいなかったから、それが罷り通っていただけで。
秋野のようなタイプにそんなものが通用するわけがなかったのだ。
もう帰ってもいいかと訊かれて、送ると言ったらまた嫌な顔をされて。
でも、夜の繁華街を女子一人で歩かせるわけにはいかなくて。
女に見えるとか見えないとか、言い争ってたら酔っ払いに突っ込まれるし。
でも、家を知られたくない、と言われたらそれがまた心を抉った。
そこまで嫌われてるのかと訊いたら、好かれてるとでも思ってるのかと返されて。
そうは思ってないけど。
でも、それに近かったかもしれない。
俺は、今まで異性から嫌われるってことがほとんどなかったから。
まぁ、氷狩という例外はいるんだけど…
気まずくて、恥ずかしくて、そういうわけじゃないと言いはしたものの、本当にそこまで嫌いなのかとまた訊いてしまった。
そうしたら、秋野も気まずそうな顔をして「そこまでじゃない」と言った。
勢いで言っちゃった、みたいな顔をしてた。
しつこくするのは俺のキャラじゃないとは思ったけど。秋野の顔を見たらどうにも諦らめられなくて。
どうしても送ったら駄目なのかと食い下がったら、「途中までなら」と言う。
途中って。
危ないからって言ってるのに、それじゃ意味ないじゃん…
そう思ったけど、文句あるのかと訊かれたら、あるとは言えなかった。
微妙な距離をとられながら、俺たちは歩き出した。
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