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9.
秋野が足を止めたのは、繁華街からしばらく歩いた通り沿いの交差点だった。
ここでいいと言うので、あとどれくらいかと訊いたら、すぐそこだと言う。
2、3本下りれば住宅街だと思うけど、このへんはあまり詳しくない。
これまでの経緯的にそれ以上訊くのはとても無理で、俺は秋野のアドレスを尋ねることにした。
このまま帰ったらもう二度と会えない、そんな気がした。
番号とアドレスを訊いたら、案の定「何で」と訊き返された。
「また会いたいから」と正直に言ったけど、秋野は黙ってしまった。
その硬い表情が、またしてもグサっと刺さる。
どうやって断ろうかと考えているようにしか見えなかった。
諦めた方がいいかも…
こうも連続だと、ちょっと辛くなってくる。
何でこんなことになったんだろう。
そもそも、どうしてうまくいかなかった?いつもはこういうの得意なのに、今日は下手くそばかりで、まるで自分が自分じゃないみたいだ。
「もう、会いたくない?」
しかも、自分から傷口を広げるようなことを口にしてしまった。
でも意外にも秋野は首を振った。
「そんなことないけど…」
「ほんと?」
その言葉が思いの外嬉しくて、パッと光が差したような気がして。
「でも、いろいろ訊くのはやめてほしい…」
秋野が焦ったようにそう言ったのもすぐ了解した。
いろいろ訊かない、と頭の中に刷り込む。
「わかった。じゃぁアドレス…」
「ねぇ」
「ん?」
スマホを出そうとして、ポケットに入れた手が中途半端なまま。
「なんで、付き合いたいって言ったの」
意外な質問を秋野にされた。
何となくだけど、それが引っかかってたんだとわかるような言い方だった。
「言いたくなければいいけど…」
と言うけど、別に隠す必要もない。
むしろ、付き合うことに関心があるなら大歓迎だった。
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