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悪い奴と優しい奴
1.
『日曜日、バイトを休みにしたから会おうよ』
というメッセージがきた。
「バイト…」
してるんだ。
それはいいけど、会おうよって言ったって。
「会って何するんだろ…?」
面白そうだから近くで見たいと言ってたけど、まさかそれが目的なのか。
「てことは、私…観察される…?」
面白いっていうのが誉め言葉なのかどうか。
それに、加藤冬馬のあの顔がすぐ側でこっちを見てるのを想像したら。
ちょっと嫌だった。
見せ物じゃないんだし。
お断りのメッセージを入れようとしたら、ポン、と次が入ってきた。
『ケーキバイキングに連れてってあげる』
「ケーキ…?」
「なぁに~?ケーキ食べに行くの?」
急に視界が翳ったと思ったら、机の反対側から美環が覗き込んできてた。
長い髪を耳の下で束ねていて、そこには昨日、ショッピングモールで買った光沢のあるシュシュが使われている。
美環は、スマホの画面を見て「あら、お誘いじゃん」と楽しそうな顔をする。
「いいなぁ、バイキング♪」
「…いいのかなぁ…」
「秋野、甘いもの好きじゃん。ケーキも好きでしょ?」
「うん、好きだけどさ」
正直なところ、ケーキは食べたい。
元が甘いもの好きだけど、ここしばらくほとんど食べてないから余計に。
ただ、相手による…んだけどなぁ…
せっかくの美味しいケーキが、台無しになるようなのは嫌だ。
「行かないの?ていうか、これ誘ってるのって、誰…?」
「あぁ、これは…」
ポン、とまた音がして。
『この前、迷惑かけたから奢るよ』
「………」
行こうかな。
別に、加藤冬馬が横にいたって、そっち見なければいいんじゃないか。
おでんの時みたいに、ケーキに集中しちゃえば。
「…ねぇ秋野?」
「うん?」
『行く』と返事をしながら、美環にも返事をする。
「それ誰なの?」
「加藤冬馬」
「そういうことじゃなくて…どういう関係?」
「んー…バレンタインにチョコ恵んでくれた人」
「…はぁ?」
1から説明して、と言われたところでチャイムが鳴った。
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