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5.
「どうぞ?」
その男、シンがもう一度言って、封筒をさらに前に出した。
「あ…、はい」
手を出したら、反射的にお礼を言いそうになってしまう。
最初にお金を受け取った時、「ありがとうございます」と言ったら笑われた。
「アキくんが働いた報酬なんだから、お礼は要らないですよ」
そういうものかと思って、呆れたように笑われたのも恥ずかしくて、その後からは気をつけているけど。うっかりすると、つい口にしそうになる。
封筒の中身は3万円、+キス1回分の5千円。と、諸々掛かった経費的なお金分1万円。
それだけのお金を、カナさんは土曜のあのデート?の報酬として支払ったわけで。
改めて思う。お嬢様女子校って、そんなお金持ちな子ばかりなんだろうか…
だって、もしかしたら、いや、もしかしなくても実際はそれ以上を払ってるんだろう。
じゃなきゃ仲介のシンはタダ働きになってしまうんだし。
この目の前の男が天使っぽいのは見た目だけで、中身はたぶん正反対。
捕まったらまずいのは、初めて会ったときから何となく感じていた。
今は茶色く見えるその両目が、蜂蜜色に光るのを見た時に。
悪魔、っていう言葉が浮かんだくらい、恐ろしくて美しい、そういう笑顔を見たから。
できることならすぐにでも縁を切りたいけど。
契約終了の卒業まではまだ5ヶ月もある…
「それじゃ…」
何故かこっちをじっと見つめるているシンの、視線を振り切るようにドアを閉めようとしたら。
「待ってアキくん、これ」
もう片方の手に持っていた紙袋を差し出された。
「?…何ですか?」
「今週のお客様の要望で、これを着てほしいんです」
「…はぁ」
シンからはバイト代以外のモノはなるべく貰いたくない。でも、バイトの内容によってはこういうことがある。
そうなると、自分ではどうしようもなくて。
紙袋を受け取って、ため息混じりに中を覗いた。
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