悪い奴と優しい奴

8/16

1902人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
8.  火曜日。朝。  加藤冬馬からまたメッセージがきた。 歯磨きしながら見たスマホには。 『今日の放課後ひま?』 その後に何故か馬のイラストスタンプ。 「ひまじゃない…」 返事をしたらすぐ既読になって、2秒でその返事。 『何で?』 何で…? 誰も彼もが放課後は暇だとでも思っているのか。  口から歯ブラシを出して、うがいをする。 口の中はスッキリしたけど、鏡に映る自分の顔は冴えない。  昨日あのあと、ネクタイとスーツと格闘した挙げ句、うまく出来なくて疲れて寝ようとしたら、シンが夢に出てきてよく眠れなかった。 おかげで、寝不足の頭が重い。 だから今日はまっすぐ帰って寝ると決めていた。  それを打ち込もうとしたところに、また次が。 『アイス買ってあげるから出ておいでよ』 …アイス? 晩秋のこの時期、放課後にアイス? ていうか、ケーキバイキングと言い、甘い食べ物を与えれば出てくると思われてる? …餌付けか。 「行かない…」 入れて、送信ボタンを押そうとして、指が躊躇う。 アイスは食べたい。 「釣られてる…!」 スマホを放りだして、頭を抱えた。 「おつかれー…」  相変わらず軽い調子の加藤冬馬が、手を振っている。 と、思ったら、急に真顔になってジロジロ見てきた。 膝の辺りを。 ていうか、スカートを?  駅裏の公園、噴水前のベンチ。 まだ待ち合わせの5分前だけど。 何となくだけどもっと前から来てた様子だった。 「ごめん、待たせて」 奢ってもらうのに待たせて悪いと思い、速足で近付きながら謝った。 「あぁ、いいよ…俺が誘ったんだし」 ベンチから立ち上がりながら、腕時計を見る。 「ていうか、まだ時間になってないじゃん」 「…そうだけど、待たせたから」 ブレザーのポケットに両手を突っ込んでいたから、寒かったんじゃないかと思って。 10月の末、夕方は陽が落ちると一気に気温が下がる。 「平気だよ。行こ?」 「うん」 並んで歩き出した。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1902人が本棚に入れています
本棚に追加