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8.
火曜日。朝。
加藤冬馬からまたメッセージがきた。
歯磨きしながら見たスマホには。
『今日の放課後ひま?』
その後に何故か馬のイラストスタンプ。
「ひまじゃない…」
返事をしたらすぐ既読になって、2秒でその返事。
『何で?』
何で…?
誰も彼もが放課後は暇だとでも思っているのか。
口から歯ブラシを出して、うがいをする。
口の中はスッキリしたけど、鏡に映る自分の顔は冴えない。
昨日あのあと、ネクタイとスーツと格闘した挙げ句、うまく出来なくて疲れて寝ようとしたら、シンが夢に出てきてよく眠れなかった。
おかげで、寝不足の頭が重い。
だから今日はまっすぐ帰って寝ると決めていた。
それを打ち込もうとしたところに、また次が。
『アイス買ってあげるから出ておいでよ』
…アイス?
晩秋のこの時期、放課後にアイス?
ていうか、ケーキバイキングと言い、甘い食べ物を与えれば出てくると思われてる?
…餌付けか。
「行かない…」
入れて、送信ボタンを押そうとして、指が躊躇う。
アイスは食べたい。
「釣られてる…!」
スマホを放りだして、頭を抱えた。
「おつかれー…」
相変わらず軽い調子の加藤冬馬が、手を振っている。
と、思ったら、急に真顔になってジロジロ見てきた。
膝の辺りを。
ていうか、スカートを?
駅裏の公園、噴水前のベンチ。
まだ待ち合わせの5分前だけど。
何となくだけどもっと前から来てた様子だった。
「ごめん、待たせて」
奢ってもらうのに待たせて悪いと思い、速足で近付きながら謝った。
「あぁ、いいよ…俺が誘ったんだし」
ベンチから立ち上がりながら、腕時計を見る。
「ていうか、まだ時間になってないじゃん」
「…そうだけど、待たせたから」
ブレザーのポケットに両手を突っ込んでいたから、寒かったんじゃないかと思って。
10月の末、夕方は陽が落ちると一気に気温が下がる。
「平気だよ。行こ?」
「うん」
並んで歩き出した。
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