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10.
「秋野は何にする?」
アイスっていうか、ジェラート屋さん、なのかな。
小さいけどちゃんとしたお店で。
冬馬の、アイス買ってあげるからっていう言い方が、コンビニとかその辺で買ってくれるイメージでいたので、ちょっと意外だった。
さっきの話じゃないけど、本当にお金持ちでお坊ちゃんだったりして?
さり気なく見ると、制服の高級感のせいなのか、そんなふうに見えなくもない。
「そこじゃ見えないから、こっちにおいでよ」
手招きされて、隣に並んだ。
お店は小さいのに種類はけっこう多くて、ケースの中には20種類くらい並んでいた。
「いらっしゃいませ」
と声を掛けてくれたのは、優しそうな笑顔の小柄なおばあさん。
髪が真っ白で、大きな丸い眼鏡の奥の小さな目が可愛い。
白シャツに真っ赤なエプロン、その上から上品なネイビーのケーブル編みカーディガンを着てる。
何か、おしゃれ。
「あら、冬馬くん。また来たの」
背の高い冬馬を見上げて、そう言った。
「うん」
「今日は彼女も連れてきてくれたの?」
ちらっと私の方を見て、そんなことを言うけど。
「彼女になってってお願いしたけど、断られた子なんだよね」
私が否定するより先に冬馬がしれっと答えた。
変なところで正直な奴。
「あらまぁ…」
おばあさんが冬馬の顔から私へ、視線を移した。
そうなの?と、訊かれている気がして。
何とも言えずに目を逸らした。
「俺はバニラと限定マロンでダブルにする。秋野は?」
「あ、待って。今選ぶから」
色とりどりのジェラートはどれも美味しそうで迷ってしまう。
そんな私に、おばあさんは優しく言ってくれた。
「ゆっくり見て選んで大丈夫だからね」
「ねぇ、小波さん。今日も裏の席借りていい?」
「いいわよ。冬馬くんならいつでも」
二人の会話が、ケースを覗き込む頭上を通り過ぎる。
ホワイトチョコレートか、キャラメルか…
バニラも食べたいけど。
こんなにあると本当に迷う。
「はい、バニラとマロン」
「ありがと小波さん。…秋野、決まった?」
隣から覗き込まれて、「もうちょっと」と答えたら、コナミさんが「駄目よー、冬馬くん」と言った。
「女の子は迷うのよ。急かす男はいつまでたっても恋人にしてもらえないわよ?」
「え、そうなの?」
じゃぁ待ってる、とか言ってる調子の良い男をジロっと見てから注文した。
「ホワイトチョコレートください」
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