悪い奴と優しい奴

11/16

1902人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
11.  カップに入ったジェラートとスプーンを渡されたら、支払いをした冬馬が「こっち」と言って店の裏手に回り込んだ。  そこは隣の建物との間の小さな庭に、一組だけテーブルセットが置かれていて。 そこに座るのかと思ったら、 「秋野、そっちじゃないよ。こっち」 呼ばれて見れば、玄関みたいなドアを開けている冬馬がいてぎょっとしてしまった。 「え?そこは家の中じゃん」 「大丈夫だから」 そう言いながら、冬馬はさっさと入ろうとする。 「ちょっと…」 「秋野、寒いから早く」 「………」 仕方なく付いていき、おそらくコナミさんの家の玄関ドアの中に入った。 「お邪魔しまーす」 「お邪魔します…」 冬馬は堂々としたものだけど、私は何だか申し訳なくて小声で言ったら、 「どうぞ〜」 表の方からコナミさんの声がした。 「ゆっくりしていってちょうだいね〜」 あの調子だと、今日が初めてじゃなさそうだ。  それにしても、入ってすぐの空間が広くて驚いた。しかもこの時間にしては明るい。 見上げたら天井吹き抜けで、壁の一部がガラス張りだった。 採光のための窓になっているのだ。 「うわ、すごい…」 「この玄関、憧れるよね」 「うん…」 すぐ隣に置かれたゴムの木の高さが、ちょうど私の身長くらい。 「秋野、こっち来て」 「?」 言われて視線を戻すと、広い玄関スペースの奥にまたテーブルセットが置かれていて、冬馬がそこに向かっている。 テーブルの脇で、床に直置きのファンヒーターが低い音をたてていて、だからこんなに暖かいんだと気付いた。 「小波さんのお気に入りだけが入れるんだって」 向かい合いに座りながら、冬馬が言った。 とういうことは、冬馬はコナミさんに気に入られているらしい。  バックパックを下ろしながら、私も座る。 厚いクッションはファーのカバー付きで、暖かく座り心地が良かった。 「コナミさんて、さっきの女性だよね?」 「そう。小さい波の小波さん」 「小波さん…」 「食べようよ。ここ暖かいから溶けちゃうからさ」 「あぁ、うん…」 プラスチックの小さなスプーンでジェラートを掬い、口に運ぶ。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1902人が本棚に入れています
本棚に追加