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11.
カップに入ったジェラートとスプーンを渡されたら、支払いをした冬馬が「こっち」と言って店の裏手に回り込んだ。
そこは隣の建物との間の小さな庭に、一組だけテーブルセットが置かれていて。
そこに座るのかと思ったら、
「秋野、そっちじゃないよ。こっち」
呼ばれて見れば、玄関みたいなドアを開けている冬馬がいてぎょっとしてしまった。
「え?そこは家の中じゃん」
「大丈夫だから」
そう言いながら、冬馬はさっさと入ろうとする。
「ちょっと…」
「秋野、寒いから早く」
「………」
仕方なく付いていき、おそらくコナミさんの家の玄関ドアの中に入った。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します…」
冬馬は堂々としたものだけど、私は何だか申し訳なくて小声で言ったら、
「どうぞ〜」
表の方からコナミさんの声がした。
「ゆっくりしていってちょうだいね〜」
あの調子だと、今日が初めてじゃなさそうだ。
それにしても、入ってすぐの空間が広くて驚いた。しかもこの時間にしては明るい。
見上げたら天井吹き抜けで、壁の一部がガラス張りだった。
採光のための窓になっているのだ。
「うわ、すごい…」
「この玄関、憧れるよね」
「うん…」
すぐ隣に置かれたゴムの木の高さが、ちょうど私の身長くらい。
「秋野、こっち来て」
「?」
言われて視線を戻すと、広い玄関スペースの奥にまたテーブルセットが置かれていて、冬馬がそこに向かっている。
テーブルの脇で、床に直置きのファンヒーターが低い音をたてていて、だからこんなに暖かいんだと気付いた。
「小波さんのお気に入りだけが入れるんだって」
向かい合いに座りながら、冬馬が言った。
とういうことは、冬馬はコナミさんに気に入られているらしい。
バックパックを下ろしながら、私も座る。
厚いクッションはファーのカバー付きで、暖かく座り心地が良かった。
「コナミさんて、さっきの女性だよね?」
「そう。小さい波の小波さん」
「小波さん…」
「食べようよ。ここ暖かいから溶けちゃうからさ」
「あぁ、うん…」
プラスチックの小さなスプーンでジェラートを掬い、口に運ぶ。
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