悪い奴と優しい奴

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13.  ジェラート屋さんの家を出て、表に回ってお礼を言ったら、小波さんが「また来てね」と言ってくれた。 「はい、また来ます」 反射的にそう言ったけど。 次はいつになるかはわからない。 ジェラートはどれもとても美味しかったし、すぐにでも来たいのは山々だけど。 「また一緒に来る?」 「………」 冬馬に訊かれても、咄嗟に頷けない自分がいた。 また誘われたら、来るんだろうか? 想像してみてもよくわからない。 察したらしい冬馬はそれ以上言わずに、来た道を引き返すように歩き始めた。 「…並ばないの?」 少し遅れて歩いていたら、そう訊かれた。 「並んだほうがいい?」 「うん。これだと話しにくいじゃん」 確かに。 速足になって追いつくと、冬馬が笑った。 「いいね」 いいんだか、悪いんだか…よくわからない。 「ねぇ、手は?」 「手?」 「うん。つないだら駄目?」 右側を歩く冬馬の左手、スラックスのポケットからいつの間にか出てる。 これと、つなぐ…いやいや。 「…駄目」 それはたぶん、私達がするのはおかしい。 だって、何故。何のために。 「そっか」 じゃぁ諦める、と冬馬が言った。 諦める? てことは、つなぎたいの? そんな疑問が舌の上まで乗ったけど、出さない。 代わりに、 「あのさ、と、冬馬…」 名前を呼んだら少し恥ずかしい気がして、つっかえてしまった。 普段、同年代の男子を下の名前で呼び捨てにすることはないから。 「ん?」 振り向いて足を止めた冬馬が、「何?」と言う。 よし、言おう。 「ジェラートご馳走様でした。あと、この前のおでんも美味しかった」 さっきも、この前も、タイミングを逃してお礼を言ってなかった。 「ありがとうって言ってなかったから、遅くなったけど今…」 言おうと思って、と続ける前に、 「秋野」 名前を呼ばれて遮られた。
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