悪い奴と優しい奴

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15. 「今日も送ってもいい?途中まででもいいから」 駅前まで戻ったら、冬馬がそう言った。  ちょうど帰宅ラッシュの真っ只中で、人通りはかなり多い。 邪魔にならないようにと、端の方に寄って話す。 「うん…」 そう言うかなぁ、とは思ってた。 「でも、できれば家まで送りたいんだけど」 真顔、だなぁ… この前けっこうきつく怒ったから、だろうな…  家を知られたくなくて断った土曜日。 それからたった3日しか経っていないのに、何だかどうでも良くなっている自分がいる。 あの時は、訊かれたくないことを訊かれて苛ついてたのもあるし。 今日は美味しいものをご馳走してもらったから。 それもあるけど。 何となく、それだけじゃないような気もする。 もうけっこう気を許してしまってる、と思う。 冬馬の方も、不思議とこの前ほど感じが悪くない。 怒られて改心したのかも…? 「無理にとは言わない。でも、今日は制服でスカートだしさ…」  黙っていたら、冬馬が言い訳し始めた。 また、ちらちら膝のあたりを見ている。 「この辺、お酒出す店も多いから。酔っ払いとか、いるし」 あぁ、そういうの心配してるんだ。 何だろう。 変な奴なんだけど、何故か憎めない。 「うん、わかった」 こういうの、決めるのは自分でもけっこう早い方だと思う。 昔から、長々と考える性格じゃなくて、直感に従う方。 「え、…いいの?」 「いいよ。家まで送ってもらう」 「本当に?」 何で疑うんだ…自分で言っておいて。 「本当だよ。早く帰ろ」 こっち、と歩き出す。 冬馬は数歩で追いついてきた。 「秋野」 「何?」 「俺に家、知られて平気なの?」 平気かと言われれば、「平気」と答えるしかない。そうじゃなきゃ送ってもらわないし。 「この前は、まだよくわからなかったから嫌だったんだけど」 「何が?」 「冬馬の、人柄…?」 「ひとがら…」 「今も変な奴だとは思ってるけど…」 「え、俺って変なの…?」 こんな、男みたいな私に付きまとっているんだから十分変だと思う。 突拍子もないこと言うし。 予想外ばっかりだし。 でも、何ていうか… 考えながら歩いていたら、歩調がゆっくりになって。 一緒に止まった。 「悪い奴ではないと思う…」 右隣の冬馬を見上げながら、そう言っていた。 今だって、車道側を歩いてるし。 やっぱり、悪い奴じゃないと思う。
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