悪い奴と優しい奴

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16.  言われた冬馬は、パチパチと瞬きして。 ぶはっと笑った。 「悪い奴なんだよって、さっき言ったばっかじゃん」 学習してないなぁと言う。 「秋野は警戒心ないのかよ」 「何でよ、あるよ」 「ないって」 何故か思い切り笑われてるけど。  警戒心は、ある。 シンのことは警戒してるし。 あれが正真正銘、悪い奴だと思うし。 そんなことを考えたら、昨日預かったスーツとネクタイを思い出した。 あのあと試しにと思って着てみたけど、スーツはともかくネクタイが問題で。 動画を見ながら締めようとしたら、やけに緩かったり、逆に首が締まったり、前と後ろの長さも思い通りにできなかった。 こういう時、不器用なのは辛い。 今夜も練習かな… 「なぁ、何考えてんの?」 気付いたら、冬馬がこっちを覗き込んできてた。 「何も……、あっ」 「?」 緑高校の制服、男子はネクタイだ。 思わず、目の前の緑色のネクタイに手を伸ばす。 「え、何?…秋野?」 結び目のところと襟の下を見て、簡易なタイプではなく自分で結ぶタイプなのを確かめた。 「これ、教えてくれない?」 「は?」 「ネクタイの結び方を教えてほしい」 「え、ネクタイ…?」 これしかないと思った。 これを逃したら、毎晩必死で頑張るか、土曜にシンに頼んで教えてもらうしかなくなってしまう。 美環には頼れないし…  あのバイトのことは、美環には言っていなかった。内容を聞いたら絶対に心配するし、やめろって言われるのが解っているから。  やりたくてやっているのではないけど、やると決めたのは自分。 途中で投げ出すわけにはいかないのだ。
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