俺のこと

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3.  そんな時に、修くんが恋をした。 俺はその直後を目撃してしまい、あの修くんが我を忘れてパニクっているのを目の当たりにした。  好きで好きで好きで好きで、ずっっっと見てるのに話しかけることもできないとか。 片想いの切なさで息も絶え絶え、死にそうになってるとか。 ただ向かい合って話すだけで、誰?みたいに赤面しているとか。 そんな馬鹿な、あの修くんが、を連発で見せられてしまい、俺の恋愛常識みたいなものは見事にひっくり返ってしまった。  寄ってくる女の子と適当に遊ぶのが1番気楽でキモチイイ。面倒なことは何もない。 そういう俺の完璧な理論が、音をたてて崩れていった。  ていうか、修くんだってそうだったのに、何で? あんなに遊んで、あんなにあしらって、それでいいんだみたいな顔してたじゃん。 何度そう口にしかかったことか…。 何なら、裏切られたような気分にもなった。 でもその度に、もはや彼女しか見えていない修くんの無限の情熱みたいなものに気圧されて、とても言えなくて。  俺は、ジリジリしながら経過を観察しつつ、結局修くんの味方で協力なんかしていた。 絶対に態度には出さなかったけど、心の奥底の方では、面白くない。 でも、面白がらないとやってられない。 置いてきぼりにされて拗ねた子供そのものだった。  でも、二人がどうにかくっついてその関係が深まっていくと、俺の子供じみた反抗心みたいなものは少しずつ減っていった。 口にできないモヤモヤしたものが、二人の姿を見ているうちに浄化されてしまったというか。 時を追うごとに他の感情へ変化して。 その正体が羨望だとわかった時。 俺は修くんと同じものがほしいと思うようになっていた。  1番近くにいたいとか、相手のことが自分よりも大事だとか、触れ合うことで幸せを感じて、大切にしたくなる。 俺がそれまで手にしたことのない。 そういう存在。 それはつまり、運命と思えるような恋人、ということで。 修くんにとっての恵さん、みたいな。 間違いなくぴったりはまる、パズルのピースのような。 そういうのがどうしてもほしいと、思うようになった。
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