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4.
秋野に初めて会った時は、そんな考えはまだなかった。
彼女作ろっかな、とは思っても、修くん達みたいなあんな衝撃的な出逢いなんか、滅多に転がってるものじゃない。
そもそもあの時の俺は、運命が転がってくるのを待っているだけで、それがいつなのかということばかり考えていた。
あの日、先輩と会ってシたのだって、その時が来るまでのただのツナギ、というか言い方は悪いけど性欲処理だ。
男に生まれた以上はそれは付きものなので、割り切るしかない。
意識がもう一段進んだのは、3月。
恵さんが、元職場の同僚の車に当て逃げされて怪我をした時だった。
あの日、修くんはホワイトデーのプレゼントと一緒にプロポーズをしようとしていた。俺には、恵さんがそれを断るはずがないのはわかっていたし、ついに結婚だとテンションが上がった。
その矢先に、故意に起こされたあの事故。
病院に駆けつけた時、修くんは目も当てられないほど弱っていた。
俺の前ではしっかりしようとしてたんだろうけど、真っ赤な目とか青白い顔とか、力のない声とか。見ている方が苦しくなるような、そんな状態で。
それこそ、この人は彼女を失ったら生きていけないんじゃないかと思ってぞっとしたくらい。
不幸中の幸いというか、恵さんは怪我をしたけれど、骨折などの重傷もなく、時間が経てば目を覚ますと言われていた。
なのに丸2日間、眠ったままだった彼女の傍で、修くんはどんどん弱っていった。
お母さんを亡くした時の修くんは、あそこまでではなかったと思う。あの時も傷ついていたのは確かだけど。
刻一刻と弱っていく姿に、それほど大事なんだと、言葉ではないもので思い知らされた。
いつだって彼は、彼女への恋にその身を焦がしていたのだけど、あの時ばかりは身を焦がす炎に焼き尽くされるんじゃないかと本気で心配した。
でも同時に、それほどの恋がやっぱり羨ましい自分がいて。
彼女のためなら命だって躊躇わずに投げ出しそうな修くんの恋こそが。
本物なんだって、思った。
そして、待っていてもこなそうだから探しに行こうかなって。
思った結果、今に至る。
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