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5.
ネクタイの締め方を教えてほしいと言われて。
いいよと言ったら、家の中に入れてもらえた。
この前はあんなに警戒していたのに嘘みたいに簡単に。
今日だって、アイスで釣ったら出てきてくれたし。
秋野の警戒心の無さと甘いもの好きはもう確定で良さそうだ。
ただ、一人暮らしだったのは予想外だった。
「どうぞ入って」と言われて、こんな夕食時では家族に迷惑がかかるし外でと言ったら、一人だから関係ないと言う。
確かに、そのアパートは単身用のワンルームタイプで。
玄関に立ったら部屋の中が全部見えてしまうくらいの広さ、というか狭さ。
これに小さなクローゼットと、シャワーとトイレが付いているタイプのようだ。
驚いたのはもう一つ。物の少なさ。
机と椅子。ソファベッド。家具らしい家具はそれだけで、あとはミニキッチンにミニ冷蔵庫とフライパン、鍋、小さなナイフとキッチンバサミ。マグカップとお皿と箸。
見える範囲にはこれしかない。
引き出しの中とかは見えないけど。
「秋野、引っ越してきたばっかなの?」
「うん、夏に」
「夏…」
部屋が狭いのは別として、3か月も住んでいるのに昨日引っ越してきたみたいなこの部屋はどういうことなんだ。
究極のミニマリストみたいなんだけど…?
「ソファに座って。お茶飲む?」
本人は至って平常で、照れたりする様子もない。
「あ、うん…」
言われるままにソファに座って、秋野の動きを目で追った。
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