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7.
「これを秋野が着るの?」
思わず訊いてしまったのは、意味がわからなかったから。
秋冬生地のスリーピース。シャツ、ネクタイとの色合わせもいい感じ。ベルトと靴まで入ってる。
秋野はうまく着られないと言うけど、一見して高そうな素材のをここまで揃えてるなら、サイズも本人に合わせてあるんじゃないか。
ふと、思った。
これを用意したのは誰だ…?
ネクタイも締められない秋野が買うわけはない。
そもそも、女子高生が買ったり着たりするような物でもない。
秋野は俺の問いかけに対して、少し警戒の表情になった。
「あ、うん…」
その「うん」のトーンで、これは訊かれたくないんだと伝わってきた。
秋野はわかりやすいし、察しがいいのは俺の長所だ。まぁ、良い時も悪い時もあるんだけど。
ていうか。
訊きたいことが多すぎる。
何のためにこれを着るのか。
着て何をするのか、どこで誰と会うのか。
でも。
ちらりと秋野の顔を見たら。
一瞬だけ目が合って、すぐ逸らされた。
ほらな…
これは訊いたら駄目なんだ。
というわけで、俺は想像するしかない。
秋野は女子にしては背が高い。170はいってそう。手足が長くて小顔だし、造形だって整ってる。
このスーツだって、きっと似合うだろう。
これを着て、いい感じに髪を作って。
この前みたいに隣に女の子でもいれば、いいとこのお坊ちゃんのデートくらいには見えそう…
あ。
それ、か…
土曜のあのデート風景が蘇った。
女同士の、秋野が男役のデート。
土曜の午後だけ用事があると言った。
彼女が週末毎にそんなコトをしてるとしたら?
今度はこれを着ていくわけ、か…
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