再会

5/16

1900人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
5.  駅の入口で、「今日はありがとうございました」とお礼を言われ、何だかなと思いつつも「うん」と応えた。  いつも思う。 今日の私は、ちゃんとできてました?これでお金もらっちゃっていいですか?と。  あ、そうだ。お金といえば、ほっぺにチューが残ってた。 「…ちょっと、ごめん」  言いながらカナさんに手を伸ばして、耳のところに垂らされてた髪を避ける。 カナさんの体が強張ったのがわかった。 嫌がってる…? でも、顔が赤いから緊張してるだけ? どっちにしろ、お金で約束したことだから、やるしかないんだけど。  ゆっくりとかがみ込むように近づいて、白い肌に口づけた。  なんの感動もないただの行為に、また胸の奥が冷たくなる。 こんなこと、いつまでやるのかなって。  手を引っ込めてカナさんの顔を見たら、また涙ぐんでた。 「ありがとうございました…」 「うん…」 「それじゃ、私はこれで…」 「…バイバイ」 手を振って、今日のデートは終了。    カナさんの背中が改札の中に消えたのを確認して、駅を出た。腕時計は18時過ぎを指している。  帰って勉強するか、もう少しどこかに寄るか。考えながら歩いていたら、ふいに後ろから肩を叩かれた。 「なぁ」 と、声をかけられて振り返ったら。 同年代くらいの男の人が立ってた。 知らない人…、いや、見覚えがある…? 「あれって、彼女?」 笑顔でそう訊かれて。 見覚えがあったとしても、誰だったか思い出せないくらいなんだから答える必要なんかない。 そう思うのに何故か、 「違うけど…」 と、答えていた。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1900人が本棚に入れています
本棚に追加