俺のこと

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12.  カチャカチャと音をたてたベルトを引き抜いた秋野を見て、俺は焦った。 急いで水を止める。 「秋野っ」 「ん?」 もうボタン外してるし…! 「ちょっと待って、俺外に」 出るから、と言う前に。 すっとスラックスを下ろしてしまう秋野。 本当に、脱ぐのは速い。 目を逸らすのさえ間に合わず、息をのむ俺。 「……っ」 …え、何それ? 短パン…? 黒の、学校用であろう短パンからすらりと伸びた足は眩しい限りだけど。 思ってた下着姿ではなかった。  しかも、視線の先で平然としている秋野が、 「はいてるよ?」 なんて言う。 「冬馬、着替えのたびに外行くんじゃ寒いじゃん」 しれっと言いやがって。 そりゃそうだけど。 「…先に言えよ」 焦って損した… 「え、ごめん」  秋野は反省してる様子もなく、今度はシャツのボタンを外し始めた。 躊躇いのないところを見ると、あの下も何か着てるんだろう。  ため息をついて、鍋に水を足してから火にかけた。 「ねぇ、お味噌汁って何味?」 秋野が後ろから訊いてくる。 「味噌汁は味噌味だろ」 「あ、そうじゃなくて。具は何っていう意味で」 「具は…茄子がメインのと、わかめと豆腐のやつ」 コンビニで適当に選んだやつを手に取って、パッケージを見ながら説明したら、「冬馬はどっちにする?」と訊かれた。 「お弁当は私が選んだから、お味噌汁は冬馬が選んで」 「俺は好き嫌いないし、どっちでも…」 「今の気分でいいから、選んで」 「…じゃぁ、茄子で」 「………うん」 何なんだ?その間は… さては茄子が良かったのか。 「あのさ、正直に言えば…」 替えてやる、と言うつもりで振り返った俺の視界に。 上半身下着姿の秋野が飛び込んできた。 「は!?」 着てるんじゃなかったのかよ? スポーツタイプというのか、胸の下くらいまでのしっかりしたやつ、だけど。 下着は下着だ。 「ん?」 「ん?じゃ、ないだろ…何、下着…」 「あぁ、これ下着っぽくないから平気だと思って」 部活やってた頃からずっと使ってるやつで。 いわゆるブラジャーじゃないし。 揺れないように押さえる機能性タイプ。 とか何とか、言いながら秋野がスウェットをかぶって袖を通す。 「ゆ、揺…?」 口ごもる俺のことなんか全く気にしてない。 すっきり引き締まった腹部が見えなくなったと思ったら、こっちに寄ってきた。 「冬馬、茄子好きなの?」 また30センチの距離まで近づいて、そんなことを言う。 だからさ、距離感がおかしいんだよ… 俺の目は、沸々してきている水面をガン見しているはずなのに。 頭の中では、目の奥に焼き付いてしまった秋野の下着姿が勝手に反芻されていた。
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