俺のこと

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14.  食べ終わって、ゴミをまとめて。 秋野がスーツをハンガーに掛けてクローゼットに仕舞うのを見ながら思った。 楽しかったな…って。  食事中の会話は弾んだという程ではなかったにしろ。ご飯よりパンが好きとか、和菓子より洋菓子が好きとか、どこでも寝られるとか。情報収集みたいになったけど、いろいろ訊けた。  秋野から質問することはなくて、様子を見ながら俺が話を振ると、向こうが応えるって感じで。 でも、俺は何か、満たされた。  そのままいい気分で、さっさと帰れればよかったのに。 「あれ?」と秋野が目を留めたのが。 キッチンの隅に置きっぱなしになっていた、パンが10個入った袋。 途端に、いい気分は消え去った。 やべ、忘れてた… 「冬馬、これは?」 「あ、あぁ…」 どうしよう。 こんなの持って帰ったって、母親に変に勘繰られて面倒なだけだ。 忘れたままで帰りたかったけど、それはそれで問題がある。 「冬馬って、パン好きなの?」  秋野が中身をちらっと見てから訊く。 そうじゃない。 いや、好きだけど。 買ってきたのは… 「いや…食べるかな、と思って…?」 「?…誰が?」 「…秋野が」 「………」 「………」 何この沈黙…  秋野は、俺の顔を見て少しだけ目を見開いて。 何か言おうとして口を開いたけど、何も言わずに閉じた。  俺は、その表情から何かを読み取ろうとしたけど。 わ、わかんねー… 怒っているのか、いないのか。 他の感情も見えないし。 あぁ、何か言わないと。 でも何も思い浮かばない。 1秒ごとに焦りが募って、咳払いなんかしたりして。そしたら。 「さっき、お金の事情とか言ったから?」 ズバッと秋野に訊かれてしまった。 その声に怒りが含まれていないことに、かなりほっとして。 「あー…うん、気になって…。でも、何かごめん」 呪縛が解けたみたいに言葉が出た。 改めて考えたらやっぱり失礼だったような。 でも秋野は平然としている。 「そっか。気を遣わせてこっちこそごめん」 「いや、俺が余計な…お世話をした?感じ、だよな…?」 「…そんなことないよ。パン、もらっていいならもらう」 そう言ってくれるのが1番助かる。 肩の力が抜けた。 「あ…うん、良かったらどうぞ」 そう言ったのに、秋野は固まったまま動かない。 俺の顔と、パンの入った袋を交互に見てる。 ちょっと震えてる…? 「…何?」 「ぶはっ…ははははは!」
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