1907人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
14.
食べ終わって、ゴミをまとめて。
秋野がスーツをハンガーに掛けてクローゼットに仕舞うのを見ながら思った。
楽しかったな…って。
食事中の会話は弾んだという程ではなかったにしろ。ご飯よりパンが好きとか、和菓子より洋菓子が好きとか、どこでも寝られるとか。情報収集みたいになったけど、いろいろ訊けた。
秋野から質問することはなくて、様子を見ながら俺が話を振ると、向こうが応えるって感じで。
でも、俺は何か、満たされた。
そのままいい気分で、さっさと帰れればよかったのに。
「あれ?」と秋野が目を留めたのが。
キッチンの隅に置きっぱなしになっていた、パンが10個入った袋。
途端に、いい気分は消え去った。
やべ、忘れてた…
「冬馬、これは?」
「あ、あぁ…」
どうしよう。
こんなの持って帰ったって、母親に変に勘繰られて面倒なだけだ。
忘れたままで帰りたかったけど、それはそれで問題がある。
「冬馬って、パン好きなの?」
秋野が中身をちらっと見てから訊く。
そうじゃない。
いや、好きだけど。
買ってきたのは…
「いや…食べるかな、と思って…?」
「?…誰が?」
「…秋野が」
「………」
「………」
何この沈黙…
秋野は、俺の顔を見て少しだけ目を見開いて。
何か言おうとして口を開いたけど、何も言わずに閉じた。
俺は、その表情から何かを読み取ろうとしたけど。
わ、わかんねー…
怒っているのか、いないのか。
他の感情も見えないし。
あぁ、何か言わないと。
でも何も思い浮かばない。
1秒ごとに焦りが募って、咳払いなんかしたりして。そしたら。
「さっき、お金の事情とか言ったから?」
ズバッと秋野に訊かれてしまった。
その声に怒りが含まれていないことに、かなりほっとして。
「あー…うん、気になって…。でも、何かごめん」
呪縛が解けたみたいに言葉が出た。
改めて考えたらやっぱり失礼だったような。
でも秋野は平然としている。
「そっか。気を遣わせてこっちこそごめん」
「いや、俺が余計な…お世話をした?感じ、だよな…?」
「…そんなことないよ。パン、もらっていいならもらう」
そう言ってくれるのが1番助かる。
肩の力が抜けた。
「あ…うん、良かったらどうぞ」
そう言ったのに、秋野は固まったまま動かない。
俺の顔と、パンの入った袋を交互に見てる。
ちょっと震えてる…?
「…何?」
「ぶはっ…ははははは!」
最初のコメントを投稿しよう!