俺のこと

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15.  目の前で、秋野が腹を抱えて笑い出した。 「あはははは…ははははは!」 息継ぎしてまた笑ってるんだけど。 「何?何だよ?」 どう見ても俺のことを笑っている。 でも、俺には何で笑われてるのかがわからない。 「あー…、おかしい…」 ひとしきり笑って、やっとそれがおさまってきて。 でも俺の顔を見る目は、まだ笑ってて。 何なんだ… ちょっと不貞腐れて見てて、気付いた。 あ、笑窪… 両頬にくっきり出てる。  今日もちょっとくらいの笑顔は見せてくれたけど。ジェラート食べたときとか。  でも、こんなに思いっきり笑ってくれたのはバスで会って以来だった。  似合う。 秋野には絶対、この笑顔が似合う。 子犬モード発動だな… そんなことを考えながら、不覚にも見惚れてたら。 「冬馬ってさぁ…」 息を整えた秋野が言った。 「犬っぽい」 「え」 犬はそっちだろうと咄嗟に思った。 たった今、野良猫が子犬に戻ったと思ったばかりだ。 「犬?俺?」 「うん、大型犬」 大型犬。 俺が? 「最初すごい勢いで突っ込んできて、遊びたい遊びたいって騒いで、私のこと付き合わせて」 「………」 「ガツンと怒ったらシュンとして、次からはお伺い立ててくれるの。おもちゃ持ってきて、これで遊んでくれる?って」 ね?と、言われても… 俺は動物を飼った経験がないからわからない。 だから、 「犬はパン買ってこないじゃん…」 そんな返ししか出来なかった。 「あはは、そこじゃないよ」 また笑うし。 「友達の家で飼ってるラブラドールに似てる。大きくって可愛いんだけど、いつも遊んでほしくておもちゃ持ってくるの。でも前に私、突進されて転んだことがあって…」 それを見た友達がすごい剣幕で怒ったら、それ以来おもちゃを咥えたまま、遊んでもらえるまで近くに座って待つようになったのだという。 「それが俺と似てんの?」 「うん。似てるっていうか、今日の冬馬を見てたら思い出した。怒られたくないけど、遊びたいっていうか…、私に気を遣ってくれるようになったの。それとちょっと違うけど、この前私がきつく言ったから、ケーキバイキングとかジェラートとか、そのお詫びなんでしょ?」 お詫び…というのとは少し違う。  早い話。 俺は、秋野に会いたかった。 日曜日の約束、オッケーもらったけど。 5日後の日曜は遠かった。 朝、ふと今日もバイトがないから会えると思ったら、会いたくなって。 家族にも、友達にも、誰にも教えてない、とっておきのジェラート屋さんで秋野を釣った。 甘いものなら誘い出せると思った。 で、まぁ… あわよくば、この前の怒られたのがジェラートで帳消しになればいいなって思ってた。
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