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土曜日の憂鬱
1.
月が変わって、学校は文化祭一色になった。
イベントが終わるまでは、準備でばたつく。
うちのクラスはコスプレ写真館をするんだそうで。
衣装は各自持ち寄り、何でもいいけど派手なほどいいとか言って、集めた中から良さそうなのをピックして。
さらにそれを着られそうな人を選ぶ。持ってきた本人に限らず、着て写真映えが良い方が優先。
そして、当日はどの人と写真を撮りますか?みたいなやり方でお客さんを呼び込むという。
「お客さんに着てもらうんじゃないんだね」
「あ、それもありみたいよ〜。でも衣装がどれくらい集まるかにもよるし、サイズのこともあるからねぇ」
「あぁ、そっか…」
放課後の教室。
ホームルームで爆睡していて、文化祭の文も聞かなかった私に、美環が丁寧に教えてくれている。
「大体わかった?」
「うん」
「秋野、何か衣装になりそうなもの持ってる?」
「持ってない」
「だよね」
美環は何度かうちに来たことがある。
あの、何もないアパートのことを知ってる。
知ってると言えば、冬馬も。
玄関でぽかんとしてた。
家具がほとんどないし、たぶんお茶を渡した時に、冷蔵庫の中が見えたんだろう。
自炊は今は全然しない。朝夕は買ったもので適当に。昼は学食にも行ったり。そんな状態だから、冷蔵庫はほぼ飲み物置き場でしかない。
それを見た冬馬は、母親を亡くして1人の私が、すごく貧乏で食べるのに困ってるんじゃないかと思ったらしい。
お弁当と一緒にどっさりパンを買ってきて、でもそれが貧乏扱いしてるようで失礼なんじゃないかとハラハラしてた。
自分のしたことが、また私を怒らせるんじゃないかって。
思ったんだろうな…
ほんと、土曜日のエゴの塊みたいだった冬馬が嘘みたいだ。
「秋野、何で笑ってるの?」
「ん?」
「思い出し笑いは気持ち悪いよ」
「そっか。ごめん」
上がってしまいそうになる口角をぐっと引き締めた。
もう帰るかなと思って、支度を始めると。
「ねぇ」
美環が、真剣な顔で身を乗り出してきた。
「?」
「加藤冬馬って言ったよね?この前の食べ友」
「うん」
今ちょうど考えてたから、名前が出てちょっとびっくり。
「私、緑高校に友達いるから聞いてみたんだけど」
有名人だよ、と美環が言う。
「有名人…?」
冬馬が?
「うん。超、有名人なの」
「へぇ…」
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