土曜日の憂鬱

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2. 「へぇ、じゃないよ。秋野、そいつのこと好きじゃないって言ったよね?」 「うん…」  男としては、特別に好きだとは思ってないけど。 でも人間としては、けっこういいんじゃないかと思ってたりする。 優しいし、楽しいし、何ていうかいい奴だ。 「それならいいけど。加藤冬馬って、結構な遊び人だって」 「遊び人?」 「女遊びがすごいらしいよ」 「おんなあそび…」 「尻軽女とめっちゃやりまくってるって」 「しりがる…?」 「秋野!」 「は、はい」 「すっとぼけてる場合じゃないってことだよ?」 「………」  とぼけているつもりはない。 けど、美環の言っていることと、昨日の冬馬のイメージがあまりにもかけ離れていて。 嘘だとしか思えなかった。 「…はぁ」 ため息までつかれてしまう。 「ごめん…?」 「何が悪いか、わかってないでしょ」 いい加減な返事をすると、美環は怒る。 「うん、ごめん…」 「だからさ、加藤冬馬は食べ友なんかじゃなくて。秋野の、世間知らずなとことか、男女のことに疎いのとか、そういうのをいいことに近付いて食っちゃう気なんだと思うの!」 周りを気にしてなんだろう、小声で、でも強めに言われた。 意味は、なんとなくわかる。 「えー…」 「えー、じゃないよ!何でのん気なの」 「だって、冬馬は悪い奴じゃないよ…」 「冬馬は、だと!?もうそんなに仲良くなったのかよ?」 「仲良いっていうか、…とにかく冬馬は悪い奴じゃないんだって」 「何でわかるの、そんなこと」 「それは…」 勘、だけど。  昨日のこととか説明すればいいのかもしれないけど。 でも、こういう状態の美環に何を言っても、私が冬馬をかばってるようにしか受け取ってもらえない気がする。 「秋野」 「…ん?」 「会わせな」 「ん??」 アワセナ? 「日曜日、ケーキバイキングでしょ?」 私も行くと、美環が言った。 「え!?」 「いいじゃん。自腹で行くし、別に邪魔しないよ」 「………」 「し、な、い、よ。ただ品定めするだけ」 品定めって… 「何でそんなこと」 「心配だから」  心配されることなんか、何もないのに。 それが顔に出たんだろう。 「不満そうだね」 「だって、品定めなんて言い方するから」 「他に言いようがないもん」 「美環…あのね」  人間の品定めなんて、そんな悪意のあるようなことをしてほしくない。 それを言おうと思ったら。 「だって、心配なんだもん…」 「え、……」  目の前で美環が、泣き出してしまった。
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