土曜日の憂鬱

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3.  家で、勉強しながら考えた。  美環とは、高校の部活で一緒になって以来の友達で、もちろん大事だし、大好きだし。この先も付き合っていきたいと思ってる。  そんな友達を泣かせるようなことを、自分はしてしまったらしい。  美環が泣いてるのなんか初めて見た。 部活の試合で負けた時も、大きな怪我をした時も、絶対泣かなかったのに。 「心配なんだもん」  そう言われて初めて、美環はこういうことで泣くんだと知った。  たぶん、夏に母親を亡くした時から心配されてたんだと思う。  葬儀から帰ってきたら、玄関前に美環がいた。  あの時の私は抜け殻みたいになっていて、カラカラのただの容れ物で。 中身は何もない。 そんなだった。  どうやって家に入ったのかよく覚えてないけど、気付いたら美環が夕御飯を作ってくれていて、私はぼんやりそれを見ていて。  できたてのお味噌汁の湯気の向こうで美環が、 「食べないとあんたも死んじゃうよ」 と言った。  死んでもいいと思った気がする。  でも、美環が。 「食べるんだよ!せっかく作ったんだから!」 と、すごい剣幕で怒るから。 これは、これ以上怒らせたらまずいと思って。 黙って食べた。  その頃、何を食べても味がよく分からなくなってたのに。 美環が作った、しょっぱい茄子のお味噌汁が美味しくて。  味覚があって、美味しいと思えて、生きている自分が。 抜け殻ではないと気付いたから。 「感謝してるんだよね…」  ノートの数式の奥に、泣き顔の美環が浮かんでしまう。  あのあと。  冬馬について、友達から聞いたことは嘘だと思うけど、万が一本当だったとしても、私達の関係はそういうのじゃない。 だから、大丈夫。 そう言っても美環は納得しなかった。  秋野は世間知らずだから。  今までお母さんと部活にしか興味なかったから。  だから、百戦錬磨みたいな男に狙われて無事でいられるはずがない。  そんなようなことを次々に言われて。 これはもう、自分が何を言っても無駄だと思った。  冬馬に会わせるしかなさそうだって。 思った。
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