土曜日の憂鬱

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8.  土曜日。午後1時、10分前。 待ち合わせのレストラン前で、目立たないように歩道の端に寄って待つ。  普段あまり足を運ばないエリアにあるレストラン。 外観はおしゃれで、けっこう大きい。  ここで誕生会とか、セレブ…って感じ。 世の中にはそういう世界で生きてる人もいるんだな、なんて思ったり。 自分にはそういうの、縁がなだそうだとも思う。  相手の人はまだ来なそうで、ぼーっと立っているうちに、つい手がネクタイの結び目に伸びる。 何とかなったと思うけど、少しだけ曲がってる気もする。 どうやってもそれが直せなかったからもう諦めたんだけど、やっぱり気になるというか。 せっかく冬馬に教えてもらったのにな… 「ねぇ、アキくん?」 「!」  急に話しかけられて、びくっとしてしまった。 「あれ?ごめんね。人違いかな」 「いえ、アキ、です…」 振り向いたそこにいた人が。 すごく、綺麗だった。  ベビーピンクのファーボレロ、ワンピースはオフホワイトでウェストの細いベルトがブラウンのエナメル。 高いヒールも、クラッチバッグも白で合わせてある。 メイクも完璧、というか。 スタイルもいいし、モデルの人みたい。 本当に高校生…? 一応、相手は高校生と決まってるはずなんだけど。 大学生とか、もっと上にも見える。  その人が、私がアキだとわかってペコリとお辞儀した。 「良かった。私はサヤカ、今日はよろしくね」 にこっと笑ったらまた、可愛いこと。 「はい、よろしくお願いします」 「敬語じゃない方がいいなぁ…」 「あ、すみ…ご、ごめん」 そうだった。 シンからの依頼メッセージに、親しい友達設定と書いてあった。 「友達だから、敬語はおかしいよね」 「うん、そういう感じがいいな」 「わかった」 それじゃぁとサヤカさんが言って、左手を持ち上げた。 その整えられた指先の、キラキラのマニキュア。 「つないで?」 「うん」 手をつないだら。 ここからは、アキになる。
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