土曜日の憂鬱

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11. 「あなた、誰?」 サヤカさんの尖った問い掛けで、二人が初対面なんだと気付いた。  取られた右腕がぎゅうぎゅう抱きしめられて、サヤカさんのボレロ越しに胸に当たってる。 すごいボリューム…?いや、弾力…?? 美人でこのスタイル、すごくない? 「ユリナ」 …あー、こっちもすごいけど。 「え、知らないんだけど?」 「私も知らないけど?」 あんたのこと、とユリナさんが言った。 名乗れと言わんばかりの言い方に、ハラハラしてしまう。 「サヤカよ」 「あっそ、訊いてないけど?」 「………」 えー?名乗れって言ってるようなもんだったじゃん… 凍りつく、場。 見…睨み合ってる二人の間に、何かがバチバチはしっている、ような。 でも、不意にサヤカさんが笑顔を浮かべた。 「うん、覚えなくていいわ。とにかく、アキくんに近寄らないで」 あ、大人の対応。なのに、 「ただのお友達なのに?」 ユリナさんはまだ絡む。 もうやめろって、この場の全員が思ってる気がする… そしたら、 「私、お友達は選ぶ主義なの」 さらににっこりしたサヤカさんが、きっぱり言い放った。 言葉の外で「あなたは友達じゃない」と言ってるのは、流石にわかる。 氷点下まで下がったような空気に包まれて、心臓が駆け足状態。でも、必死で顔だけは笑っておく。 「………」 今度はユリナさんが黙って、眉間にシワを寄せた。 この重い沈黙に耐えられなくなって。 「サヤカさん」 呼びかけた。 「え?」 「やっぱりお腹空いたから何か頂かない?」 「うん…いいよ」 「行こう」 掴まれてた腕をさり気なく解いて。 反対側の手を取ってつなぎ直した。 「アオイさん、サヤカさんと少し失礼しますね」 「あ、えぇ。たくさん食べて」 取り繕ったように笑顔で送り出されて、フロアに戻る。  立ち尽くすユリナさんの方は見なかった。 「アキくん」 「ん?」 左手に持ったお皿にカットされたフルーツを載せていると、ジャケットの裾を引かれた。 「ごめんね、嫌なもの見せて」 サヤカさんが、困り顔で見上げてきながら言う。 嫌なもの。 って、さっきのだよね… 「平気だよ」 「本当?」 「うん」 別に、今日だけのことだし。 この場だけのことだと思えば、すぐ割り切れる。 ここの人達とは、もう会うこともないだろうし。 そういう意味では、気持ち的には身軽だ。  パイナップルをふたつ。 ピンクのグレープフルーツも。 黄色のキウイも美味しそう。 「サヤカさん、こっち」 また手をつないで、空いているテーブルへ。 「はい」 フルーツを盛ったお皿とおしゃれなピックを差し出したら、サヤカさんは力が抜けたように笑った。
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