土曜日の憂鬱

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12. 「ねぇ、アキくんて不思議だね」 ピックに刺したイチゴを噛って、サヤカさんが言う。 「え?」 「女の子、だよね?」 コソッと。 「あ…うん」 お客さんは、それを知ってて指名してきているので。ためらうことなく頷いた。  サヤカさんが、テーブル越しにじっと見つめてくる。 「うーん…よく見たらそうなんだけど…でも、本当に男の子っぽくも見えるの」 それが不思議なの、と言われても。 自分ではよくわからないんだけど。 「そう?」 「うん。私、最初は普通の男の子にお願いしようと思ったのね?でも写真を見たら、気が変わって。この子がいいって言っちゃった」 「…そうなんだ」 それって顔で選んだってこと? この顔で良かった…と言うべきなんだろうか。 「アキくんてこういうの多いの?」 「こういうのって?」 「今日みたいなの」 慣れてるよね、と言われて。 驚いて、そんなことないよと返した。 こんな、パーティなんて今までなかったし。 「こういうのは初めてだよ」 「そうなの?それじゃ、いつもはどんな感じなの?」 「いつもは…」  これまでのバイトは、外で会って何処かで遊んでその間、彼氏か男友達を演じるのがパターンだった。 「ショッピングとか、映画とかが多いかなぁ…」 「ふぅん…でも、そのスーツ似合ってるよ?普段から着てるのかなって思ったもの」 「ううん、これも初めて着たんだよ」  こんなの、着たことなくて。  冬馬がいなかったら着こなせなかったし、ネクタイも出来なかった。  スーツが微妙に合わないって言ったら、冬馬はコツみたいなのを教えてくれた。ネクタイも不器用なのに付き合って、最後までちゃんと見てくれた。  優しい冬馬。 やっぱり、美環が聞いた話は間違ってると思う。  そういうのを思い出したら、何となく顔が見たくなって。 あ、明日会えるんだった。 と思ったら、気分が明るくなったような気がした。 「…アキくん」 話しかけられて、はっとする。 「あ、ごめんね。何?」 「今度、私ともそういうデートしてくれる?」 上がった気分が、ふっと下がった。 違う、これでいいんだ。今はバイト中なんだから。 「…うん、いいよ」 断る理由がないから、頷く。 「でも直接受けたら駄目だから、シンに話して」 そう言うと、サヤカさんは嬉しそうに「うん」と言った。
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