土曜日の憂鬱

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13.  サヤカさんは、基本いい人っぽかった。 お金持ちなのは間違いないけど、話していると案外普通で。 金銭感覚以外は話が合わないこともなくて、一緒にいて楽しい、本当に友達みたいな感じ。 しばらくそのままテーブルで話をして。  奥のソファ席からユリナさんがいなくなったタイミングで、アオイさんのところに戻った。 「サヤカ、さっきはごめんね」 うまく止められなくてと、主役なのに、そんなふうに真っ先に謝ってくれたアオイさんは、サヤカさんとは中学からの友達らしい。 「私こそせっかくのお誕生日にごめんね。しつこい人、嫌いだからつい…」 「いいのよ、サヤカの性格はわかってるもの。アキくんも、ごめんね?」 こっちにまで謝ってくれるとは思っていなくて、少し驚いたけど。 「いえ、気にしませんから」 「ありがとう。そう言ってもらえたら嬉しいわ」 アオイさんは微笑んでくれた。  そのまま3人で、しばらく一緒に話をして。 アオイさんが「アキ」個人のことを訊こうとすると、サヤカさんが上手く話を逸らしたり話題を変えたり。そうしているうちにアオイさんも察したみたいで、当たり障りのないこと以外は訊いてこなくなった。  サヤカさんが御手洗いに立ったタイミングで スマホをチェックしたら、美環からメッセージが届いてた。 『やっぱりバイキングやめとく』と『ごめん』。 さらに、『話したいことがあるから、夜電話していい?』。 あぁやっぱり。 何かあったんだ、勘が当たったって思った。 迷ったけど、こっちから電話はしなかった。美環が話したくなるタイミングを待とうと思って。 待ってて良かった。 『いいよ』って送ったら、横からアオイさんが、 「アキくんて不思議ね」 と言う。 「え?何がですか?」 さっきサヤカさんにも言われたけど。 「何だろうな、格好いいと可愛いが混ざってるような、不思議な魅力があるっていうか」 「………」  中性的と言われることはけっこうある。 たぶん、身長とか顔つきとか、髪が短いのとか、そういうのが合わさってそう見えるんだろうと思う。  とにかく、褒められているんだと思って御礼を言おうとした時だった。 「アオイ!」 大きな声で呼びかけられて、弾かれたようにアオイさんが正面を見た。 そこに立っていたのは、スーツ姿で眼鏡を掛けた男性。 「…タカユキ、来てたのね」 あれ、と思ったのは、応じたアオイさんの声が冷たかったから。 見れば表情も強張っている。 「今、来たんだよ」 言いながら、タカユキという男がちらっとこっちを見た。 「知らない顔だな」 「アキです。初めまして」 「私のお友達よ。それより彼女はどうしたの?」 一緒に来るはずだったでしょ、とアオイさん。 「別れたよ」 と、タカユキが答えた。
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