土曜日の憂鬱

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14. 「つまんない女だった。何もかも」 「タカユキ…」 感じの悪いその男は、ユリナさんがいたソファに座った。  ベージュのスリーピース、ピンクのシャツ、ワインレッドのネクタイ。もちろんオーダーメイドなんだろう、ぴったりだ。 靴もピカピカで、高級そうな腕時計もしてるけど。 何故か品がない。  そもそも、誕生日パーティに来たのにおめでとうを言わないって。 アオイさんは気にした様子もないけど、こっちはそこが気になって、イライラした。 失礼な男だ。 しかも。 「やっぱり俺にはサヤカみたいなのが合ってるんだよ」 「………」 サヤカって言った。 じゃぁこれが例の元彼? サヤカさん、これと付き合ってたんだ…? どうかと思うよ、なんて。 恋人がいたこともない人間には言われたくないだろうけど。 「タカユキ、サヤカはもう戻る気はないそうよ」 アオイさんの口調がきついのもわかる。 「しつこくすると余計に嫌われるわ」 きっとサヤカさん自身から、復縁を迫られて困っていると聞いているんだろう。 アオイさんは釘を刺すつもりっぽい。 でもタカユキには堪えてない。 笑ってるし。 「何だよ。幼馴染の味方はしないのか?」 軽薄な笑みを浮かべて言い返す。 どっちかと言ったら格好いいに分類される顔だと思うけど。 表情に性格が出てるというか、端々に滲むどうしようもなさ、みたいなのが目について。 こいつ嫌い。 そう思った。 まぁ、そんなの関係ないんだけど。 「サヤカは大事な友達なの。今のタカユキには勿体ないわ」 「酷いな」 まだ笑っているタカユキを、睨む勢いで見つめるアオイさん。 居辛いな…と思った瞬間。 ここにサヤカさんが戻ってきたらまずいと気付いた。強引そうな男だし、サヤカさんは嫌がってるわけだからきっと揉める。止めに入れば、シンが言ったように喧嘩になるかも。 「あの、お話し中、すみません」 「?何だよ」 「アオイさん、そろそろ時間なので失礼します」 「あ、そうなのね…」 必要以上の目線を送ると、アオイさんは何かに気付いたように頷いた。 「今日は来てくれてありがとう。またゆっくり遊びに来てね」 「はい、ありがとうございました。友達と一緒に帰りますね」 「えぇ、気を付けて」 「失礼します」 立ち上がって、一応タカユキにもお辞儀をすると、「じゃぁな」と言われた。  不自然に見えないよう、意識してゆっくり歩く。でも、歩幅がいつもより広くなるのは仕方ない。  まだ来ないで、サヤカさん… 祈りながら廊下に出て、ドアが閉まると同時にお手洗いまで走った。
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