土曜日の憂鬱

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16.  最悪だ。 ソファにいたときは、ここまでとは思わなかったけど。 こんな人だったんだ… すぐそばで聞かれているとも知らず、ユリナさんたちはそれからもう少し別の人の悪口を言って出ていった。 ちなみにそっちも聞くに耐えないような、ろくでもない内容だった。  静かになったトイレの中で、意を決して動き始める。 「…サヤカさん、今のうちに行こう」 「うん…」  つなぎっぱなしの手を引いて、気付いた。 サヤカさんの手から力が抜けてる。 アオイさんの悪口を言われた時は、怒って握りしめてたのに。 それがちょっと気掛かりだけど、あまりのんびりもしていられない。  廊下へのドアを細く開けて、誰も居ないのを確認した。 「奥の非常口から出よう」 無言で頷いたサヤカさんを連れて、足早にドアへ向かう。  サヤカさんは俯いてるから顔が見えなくて、まさか泣いてるんじゃ…?と思いながらも、とにかく急いだ。  ドアノブに手を掛けて、半分くらいはもう大丈夫って、思った瞬間だった。 「サヤカ!」 廊下の奥から、怒鳴るような声で呼ばれた。 びくっとサヤカさんの肩が跳ねて、そのまま固まって。 振り返ったら、会場へのドアからタカユキが出てきたところだった。タイミング悪く、トイレにでも出てきたのか。 「何処行くんだよ!まさか帰る気か!?」 耳障りな声で話し掛けてくる。 「サヤカさん、出よう」 ドアを開けて、背中を弱く押したけど、サヤカさんは根っこが生えたみたいに動かない。 「…サヤカさん?」 ちょっと混乱して。 だって、会いたくないんじゃなかったっけ? 逃げるみたいにしたのが良くなかったのか。 でも、会いたかったようには見えないけど… どうしたらいいのかわからなくて動けない。 そうこうしているうちに、タカユキの方がこっちに向かってきた。 「おい、サヤカ。無視するなよ」 「………」 サヤカさんは応えない。 そっちを向こうともしないし、全然動かないのだ。 あぁ、追いつかれた… 「ん?お前、さっきの…?」 タカユキがこっちを見て、目を眇めた。 「友達と帰ったんじゃなかったのか?」 「…友達っていうのがサヤカさんなんです」 とは言ってみたものの。 嘘じゃないけど、苦しい。 何てったって、非常口の前だし…。 「ここから出る気か」 「………」 「お前さ、もしかしてサヤカと逃げてるつもり?」 あーあ、バレた…
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