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予想外
1.
『行けなくなった。ごめん』
そんなメッセージがきた。
日曜日の、朝。
嘘だろ、何で?
だって、昨日の朝は…
『ケーキすごい楽しみ』
って、送ってきてたじゃん…
歯ブラシを咥えたまま固まってたら、後ろから母親が顔を出して、
「冬馬、早くどいて!」
と怒りだした。
日曜なのに出勤だから機嫌が悪い。
うがいして、歯ブラシを戻して、洗面所から出て。
廊下ですれ違った母親が、「狭いわね」と呟く。
でっかい息子ですみませんね。
廊下、もっと広くすれば良かったのにね?
母親はごく標準、というか、あの年代の一般的な身長だけど。父親は180超。俺もそっちに似て、今180センチちょうど。双子の妹も170弱あるから、長身一家。
家族全員から見下される母親は常々、「巨人に囲まれてる」とネタにしている。
部屋に戻って、机の上に広げっぱなしのノート類を横目にベッドにダイブ。
スマホをもう一度確認しても、行けなくなったというメッセージは変わらない。当たり前なんだけど。
「俺も楽しみだったんだけどな…」
友達が一緒でも、何でも。
とにかく秋野の顔が見たかった。
今日会えないとなると、もう何の約束もない。
断られたすぐそばから、次の約束を取り付けるなんておかしいんだろうか?
でも、つながりが何もないと落ち着かないんだけど。
どうしたものかと考えていると、手の中のスマホがまた短く振動した。
「!」
『1週間延ばしてくれない?』だって。
「…はは」
ほら、やっぱり行きたいんじゃん。
秋野のことだ、きっと寒くなってきたのに薄着で寝てて風邪気味とか、そんなところだろう。
あの部屋、エアコンは入ってたけど。
一晩中つけてると乾燥するから喉が痛くなったりする。ソファベッドで寝てるんだろうから、エアコンの風直撃だ。
絶対、喉風邪。そう踏んで、
「風邪でもひいた?」
と送ったら、即既読になった。
『そんなとこ』
入ってきたメッセージを見て、顔がにやける。
予想外ばかりの秋野のことで、予想通りだとちょっと嬉しくなってしまう。
わかってきてる、と思えるから。
風邪気味なら確かに、ケーキバイキングはやめておいた方がいい。
人が集まる場所だし、存分に楽しめないだろうし。
「わかった、お大事に」
『ありがと』
「次の日曜日までに治しなよ」
『絶対治す』
そんなやり取りをして。
予定がなくなった俺は、思い付きで出掛けることにした。
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