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3.
秋野のアパートの前。
両手に持った、紙袋とレジ袋。
俺、いつもこんなことやってるな…
この前はお弁当とパンだったけど。
インターホン。
ドラッグストアで買った、諸々が入った重たいレジ袋を肘の所に引っ掛けて。
ボタンを押した。
15分弱に無理やりまとめた話を聴いた修くんが、「ケーキ持っていけば?」と言わなかったら、今俺はここにはいない。
「バイキングは行けなくても、カフェのケーキならテイクアウトできるよ」
お見舞いって言えば。
家で食べるなら気兼ねしなくてもいいだろ?って。
言ってくれた。
「ついでに、風邪気味なら飲み物とか、他にも必要そうなものを届けたら?」
そしたら、もっともらしい口実にもなるって。
終始にやにやしながら聴いてると思ったけど、最後には素晴らしいアイディアをくれた。
「あの冬馬がねぇ…」
って、10回くらい言われたけど。
まぁ、俺も修くんの恵さん愛に関してはかなりイジってきたから。
それは仕方ない。
「今度連れてきな」
とまで言ってた修くんの、嬉しそうな顔を思い出す。
嬉しいのかな…
俺が、その、気になってる子のことを話すのって?
連れてこいとか、親みたいなんだけど。
…親、みたいなもんか。
会わせたい気も、するような。
いや、でもそれはまだ早いわ。
結婚しても変わらずイケメンの修くんに、万が一秋野が恋をしてしまったら困る。
…てか、その秋野が出てこないんだけど?
ドアの向こうはしんと静まり返っていて。
風邪気味程度だと勝手に思ってたけど。
実はけっこう重症だったりするのか?
高熱で寝込んでるとか…倒れてるとか…?
やばい、心配になってきた。
「秋野…?」
コンコンとノックしてみても、何の反応もない。
え、どうすんのこれ…?
ドアノブに手を、掛けてみる。
そろりと力を込めて押し下げ…ようとしたら、すぐ止まった。
鍵は、かかってる…
倒れてるか、出かけているか…?
そこへ、
「え、冬馬…?」
小さな声が届いた。
振り返ったら、秋野が立ってて。
先週会ったときの白いパーカーとジーンズ姿で、
ニット帽を目深にかぶってた。その上、ぐるぐる巻のマフラーで顔が半分以上隠れていた。
目しか見えていないという、ずいぶん怪しい風貌だ。
「秋野」
「何で…何、してんの…?」
「えー…と、…お見舞い?」
「お見舞い…」
呟いた秋野の方も、手にレジ袋を下げてた。
買い物してきたとこ?
絆創膏の箱が透けて見えてて、他にも何か入ってる。
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