予想外

4/16
前へ
/377ページ
次へ
4. 「風邪ならと思って、勝手にいろいろ持ってきちゃって…」 ゼリー飲料とか、ヨーグルトとか、解熱鎮痛薬、アイスノンとおでこに貼る冷やすやつ。 秋野の部屋の何も無い風景を思い出して。 つい、そんなのを一通り、買ってきてしまったけど。 本人も買ってきたのなら、そんなにあったってしょうがないだろう。 「ごめん、こんなに要らないな…」 あー、格好悪い。 またやってしまった。 持って帰るか… でも良かった、自分で出歩けるくらいなら。 高熱でダウンしてるよりずっといい。 「じゃぁこっちかな。ケーキ、食べられそう?」 紙袋を持ち上げて見せると、俺の顔に向けられてた視線がそっちへ移動した。 「ケー、キ?」 「うん。バイキングは延期だけど、俺のバイト先のやつ、テイクアウトしてきたから」 「…バイト、先?」 「そ、カフェRっていうんだけど…」 あれ。 何か… 秋野、目のとこ、変じゃないか…? 「ありがと…」 声もいつもより弱々しいような。 「秋野?顔が…」 「!」 ほら。 目に見えてギクッとしてるし。 「なぁ、顔見せて?」 「な、んで」 「いいから。ちょっとこっち来て」 「や、やだ」 「そんなこと言わずに、ほら」 「………っ」 じり、と後ずさりする秋野。 逃げようかと迷ってるのがわかる。 だから迷っている間に、距離を詰めた。 「別に、何も、ないから…」 何でそんなにモソモソ喋るんだ。 「じゃぁ見せれるだろ?」 「やだよ」 「何で?」 「何でも」 見るからに焦ってるじゃん。 秋野が、マフラーの上から手で押さえて防御しているのは左の頬。 わずかに見えてる左目尻の下が薄っすら赤い。 腫れてる…? 「秋野」 「…何」 「人間て、後ろめたい時は目を合わせられないんだよ。知ってる?」 「知らな…」 「何でこっち見ないのって話だよ」 「見たく、ないから」 「屁理屈か」 「………」 頑固なやつ。 そうだと思ってたけど。 力ずくで出来ないことはない。 でもそれはあとを引くし、女の子にはしたくない。 秋野には、しない。 よって、こういう時は。 「秋野?」 穏やかに。 ゆっくり、少しだけ、覗き込むように。 「………」 「驚かないし、責めないから」 「………」 「見せてごらん」 「やだ…」 「心配なだけだから」 「………」 「何も訊かないよ。約束する」 「……、…っ」 秋野の目が揺れる。 頑なに逸らしてた視線が、ゆらゆら揺れて、こっちに戻ってくる。 わかってるよ、言いたくないの。 でも心配なんだよ。 「…絶対?」 ぽつりと言ったのは。 小さな子供。 それか、叱られた子犬。 そんな感じの、初めて見る秋野だった。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2042人が本棚に入れています
本棚に追加