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黒歴史発見伝
二十五歳の誕生日。私は実家の片づけをしていた。片付けといっても自分の部屋だった六畳一間の一室だけ。今は大学の研究室がお盆の夏休み期間に入っていて、実家に帰省中だった。
東京のとある大学の研究室に入り浸って数年。そろそろ企業に移動しろとか上もうるさくなってきた。だから現実逃避のつもりで夏休みに帰省したというのに、今度はお母さんから「そろそろあんたの部屋を片付けてちょうだい」と言いだした。なぜ? と聞くと、近々知り合いのネコが子どもを生むらしい。その引き取りに立候補したのだとか。
「あんたの部屋をネコちゃんの部屋にするのよ。一匹か二匹か……どっちにしてもあんたのものは全部捨てちゃうか、アパートに持っていきなさい」とのお達し。いやいや、急にそんなことを言われても、と反論したら「あら、先月からさんざん連絡したじゃない。既読無視したのはどちら様?」というものだからスマートフォンのメッセージアプリを確認。たしかに三度ほど「ネコを飼うからあんたの部屋を片付けに来なさい。八月中に来なかったら全部処分します」とのことだった。
「しょうがないじゃん。大学も大変なんだから」
「ええ、大学も大変でしょう。でもうちも大変なのよ」
「愛娘よりネコを取るって言うの?」
私がビールをちびりと飲みながら拗ねると、お母さんは腹を抱えて笑った。
「盆と正月にしか帰省しない、来てもぐうたら、食っちゃ寝してるような大人よりはネコちゃんの方がよっぽど世話のし甲斐があるわ」
そこまで言われたらビールももうおいしくない。私は重い腰を上げて自分の部屋に逃げるように向かったのだった。
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