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「次は中学生」
中学校の卒業アルバムを見る。こちらはどれも制服がジャージ姿だった。当然のことだけど、なんだか懐かしさが強かった。
「あ、あった……げっ」
私は自分の写真を見て顔をしかめた。それは部活動の集合写真。マンガ研究部だった私は、自分の描いたイラストを自信満々に胸に抱いて写っている。そのイラスト、今の私にならどれほどバランスが崩れているかが分かった。
「当時は自分のこと、絵が描ける! 絵がうまい! って勘違いしてたんだから、イタイなあ」
私の右隣には、今も連絡を取り合う友人が同じように絵を持って写っていた。その上手さと言ったら、先生の見本のごとき。彼女は今も実家に暮らしながらイラストレーターをしている。この帰省中に、会おうかなあと思いながら写真に写る自分の左隣の少年を見つめた。
彼の名前は東海林広樹くん。彼は絵の代わりに部誌を持って写っている。仏頂面なのが懐かしさを再び呼び起こした。
「三年間クラスも部活も一緒で。楽しかったし懐かしいなあ」
この卒業アルバムは始終舐めるように見て、閉じた。日が傾いてきたのでいったん立ち上がって部屋の電気を付けた。カーテンを閉めて座ると、今度は卒業文集を手に取った。
しかし、なかなか開けなかった。心の準備ができなかったのだ。
「何を書いたか、覚えてないんだけど、なんだか恥ずかしいことを書いているような……」
昔の私が羞恥心を伴って今の私のうでをつかんでいる感じ。読むな、読むなよ、と語りかけてくるけれど、読むなと言われると読みたくなるもの。
「えいっ!」
おおよそのページを開いたら、ちょうどさっきのイラストレーターになった女の子のページが出てきた。この子も同じクラスだったから、ここから数ページさかのぼれば私だ。私はごくりとつばを飲みこみゆっくりとページをめくる。ああ、ビールを飲んだのが最後だからひどくのどが渇いている。でも、今ここで立ち上がって台所に行って麦茶を飲む余裕はない。中学三年生の私が書いた、卒業文集。今じゃないと見返せない。時間を置いたらもう、羞恥心に負けて読めなくなってしまう。読んでしまえ、読もう!
ついに私のページがあらわれた――はずだった。
「……ない……」
そう、無かった。あるのはビリビリと破かれた跡だけ。
しばらくそのページと向き合っていると、私は「あっ」と声をもらした。
高校生のころだ。
高校二年生だったと思う。
同じ中学の子が、学校に中学校の卒業アルバムと卒業文集を持ち込んだことがあった。
それを見たクラスメートから「みゆき、卒業文集にこんなこと書いてたんだ」とからかわれて恥ずかしい思いをしたのだ。そしてその日のうちに帰宅して自分のページを破いたんだ。そう、そうだ……。
「なんだぁ」
私は脱力した。飛び込もうと意気込んだけどストップがかかって、それでもブレーキが効かずにあっけなくプールにドボンした感じ。
「あはは」
卒業文集をペラペラとめくる。するとふと東海林くんのページで手が止まった。
どんなことを彼は書いたんだろう。私は目がすべるままに読んでみることにした。
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