化ける

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化ける

 私は首を傾げた。 「え、空似?」 「そういうこと」 「ターゲットは、伊志田ミク、私なんでしょ」 「ターゲットは伊志田ミクだけど、あんたは伊志田ミクじゃないでしょ」  私はハンマーで殴られたような衝撃を受けて、目を剥いた。  その瞬間、頭の中で走馬灯のように事故の光景がフラッシュバックした。 「……あんた、大槻カヤノでしょ。かなりけどさ」  そうだ――。  私は全てを思い出した。  私はあの事故で全身に大怪我を負い、認識出来ないほど顔が傷ついただけの、大槻カヤノだ。  あの時、車外の崖下へと落下していくミクの姿を見た。助からないな、直感的にそう思った。そしてその後、強い衝撃を受けた。  病院で意識が戻った時、名を聞かれた私は、何を思ったか「ミクになれるかも知れない」と思った。そして名乗ったのだ「伊志田ミク」と。  そこから最新の美容医療により、私は顔を取り戻した。  昔から憧れていた「伊志田ミク」の顔を。  私は「化けた」のだ。憧れの親友・伊志田ミクに。  今の今まで、心まで化けていて、すっかり忘れていた。  ドッペル・ミクは困ったように頬を掻いた。 「……えっと、ちょーっと複雑だけど、運命の通り伊志田ミクは死んでいたってことで、私は帰るよ。後はお好きにどうぞ、カヤノちゃん」  ……うん。  そうする、好きにさせてもらう。  だって大槻カヤノは死んだ。  私は今、伊志田ミクなんだから。 ■おわり■
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