6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
化ける
私は首を傾げた。
「え、空似?」
「そういうこと」
「ターゲットは、伊志田ミク、私なんでしょ」
「ターゲットは伊志田ミクだけど、あんたは伊志田ミクじゃないでしょ」
私はハンマーで殴られたような衝撃を受けて、目を剥いた。
その瞬間、頭の中で走馬灯のように事故の光景がフラッシュバックした。
「……あんた、大槻カヤノでしょ。かなり似せてるけどさ」
そうだ――。
私は全てを思い出した。
私はあの事故で全身に大怪我を負い、認識出来ないほど顔が傷ついただけの、大槻カヤノだ。
あの時、車外の崖下へと落下していくミクの姿を見た。助からないな、直感的にそう思った。そしてその後、強い衝撃を受けた。
病院で意識が戻った時、名を聞かれた私は、何を思ったか「ミクになれるかも知れない」と思った。そして名乗ったのだ「伊志田ミク」と。
そこから最新の美容医療により、私は顔を取り戻した。
昔から憧れていた「伊志田ミク」の顔を。
私は「化けた」のだ。憧れの親友・伊志田ミクに。
今の今まで、心まで化けていて、すっかり忘れていた。
ドッペル・ミクは困ったように頬を掻いた。
「……えっと、ちょーっと複雑だけど、運命の通り伊志田ミクは死んでいたってことで、私は帰るよ。後はお好きにどうぞ、カヤノちゃん」
……うん。
そうする、好きにさせてもらう。
だって大槻カヤノは死んだ。
私は今、伊志田ミクなんだから。
■おわり■
最初のコメントを投稿しよう!