2532人が本棚に入れています
本棚に追加
私は壁に掛けられた時計を見てため息をつく。もう二十一時だ。母が見てくれているから心配はないが、秀也が私を待っていると思うと罪悪感が募る。
昨日も帰ったのは終電間際。当然、秀也はぐっすりと眠ってしまっていて、連れて帰ることは叶わなかった。
アパートに一人帰り、朝、仕事に行く前に実家に寄って顔を見せたくらいだ。
私が仕事だとわかっているから寂しいとは言わなかったけれど、今日も遅いの? と聞かれて、ごめんねと答えるしかなかった。なんとか二年頑張ってきたが、正直、体力的にも限界だった。そこで、岩波さんに、次の契約更新で残業なしに変更してもらえないかと、契約変更を願い出たのだ。
すると、やはりというかなんというか、会社側は私の派遣契約を切ることを選んだらしい。ようやくこの生活が終わるのかと、安堵と先の見えない不安がない交ぜになったような思いで口を開く。
「贅沢は言えないんですけど、次は、なるべく残業がないところだと助かります」
「はい、承知しております。今度は田神さんの条件に合う勤務先を探しますので」
「今後とも、よろしくお願いします」
漏れそうになるため息を呑み込み、私も腰を折る。
最初のコメントを投稿しよう!