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「うん。まさか妊娠しちゃうとは思わなかったけど、拓也よりお金持ちだし、お母さんに付きあい反対されることもないしね。結婚して子どもを産んでほしいって言われたから、大学進学はやめてそうするつもりなの。だから別れて」
私の皮肉に気づいたのだろう。拓也の口元が憎々しげに歪んだ。
拓也の家である犬飼家は相当な名家で、彼の父親はいくつもの会社を経営している。母親もまたお嬢様と呼ばれるような家の出であるらしい。
時代錯誤もいいところだが、彼の母親は自分が認めた相手以外との付きあいはだめだと言い、当然私たちの付きあいにいい顔はしなかった。
拓也は付きあう相手は自分で決めるとお母さんに反発していたけれど、高校生の自分たちになにができるわけもない。初めて家にお邪魔したときは、思いっきり「息子の恋人がこんな子なんて……」と嫌味を言われたものだ。
「へぇ」
拓也の声は怒りで震えていた。地面に落とした視線は鋭く、拳は血管が浮きでるほどに強く握られている。彼がゆっくりと顔を上げて、憎悪の目を私に向けた。
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