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その間にも、大量の服が目の前のラックにかけられていく。ゼロが一つも二つも違うブランド品になど触れたことのない私からすると、手に取るのも恐ろしい。
「全部いいな」
「汚したらって思うと着られないって」
「汚したらクリーニングに出せばいいだろ」
「クリーニング代だけで、ファストファッションブランドなら一枚くらい買えちゃうでしょ!」
「あ~買えるかもな」
一枚千円のTシャツなんて着たこともないくせに、と目で訴えると、私が言いたいことが伝わったのか拓也が喉奧でくっと笑った。
「高校生のころ二人でおそろいのTシャツ買ったろ? 一枚千五百円のだっけ。まだ持ってるぞ?」
「雨に降られて着替えたとき? 傘を買った方が安かったのに、拓也が譲らないからTシャツ買ったのよね。懐かしいね、私もまだ持ってる」
「結局、傘は売り切れてただろ?」
「そうなんだけど」
二人の間に険悪な雰囲気が漂ったのも事実だ。結局、雨宿りした先で二人揃ってくしゃみをしてなんだかどうでも良くなってしまったのだが。
「あのとき俺……もう少し寧子と一緒にいたくてさ。雨宿りする時間があれば、長く一緒にいられるって思ったんだよ」
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